茅葺き屋根の家に暮らすハンターの生活とは。『モンスターハンターライズ』の町並みを建築家と観察してみた

非日常へと連れ去り楽しい時間をもたらしてくれる「ゲーム」。オンラインで、遠方の友人とも簡単につながれるとあって、コロナ禍では一層ゲーマー人口が増えたように思います。わたくし鈴木も、幼少期からずっとゲームを楽しんできた一人。社内にもゲーマーが多くいて、雑談時にはよくゲームの話題で盛り上がっています。

ところでみなさんはゲームをどのように愛でていますか? もちろん、本編をプレイするだけでも十分楽しめるのですが、ゲーム会社の精鋭デザイナーたちが手掛けた世界観を楽しむのも一興なんです。本メディアを運営するOHEYAGO(オヘヤゴー)は不動産サービス業なので、個人的には特にゲーム内の建築物に注目せずにはいられません!

そこで今回、建築家をゲストにお呼びし、『モンスターハンターライズ』内の散策をしてみることに。本作は、「ひと狩り行こうぜ」のキャッチフレーズがおなじみの、モンスターハンターシリーズの最新作です。カプコンより2021年3月26日に発売され、2021年5月28日時点で、世界で700万本の販売を突破する人気ぶり。こちらの記事では、本編ストーリーには触れませんので、クリア済みの方も未プレイの方も、ぜひお楽しみいただけましたら幸いです!

たたら製鉄が盛んな「カムラの里」

立ち入り禁止!? たたら製鉄所

たたら製鉄所たたら製鉄所

鈴木「さっそくですが、モンスターハンターライズの舞台「カムラの里」を散策していきたいと思います! 公式サイトによると、ここは

たたら製鉄が盛んな、山紫水明の里。
武器や防具の加工屋をはじめ、ハンターに
とってなくてはならない施設が充実しており、
その他にも、個性豊かな住人たちが
ハンターを支えてくれる

ということで、マップの最奥にある製鉄所がシンボルになっている里ですよね。しかしこの扉は……かなり大きいようですが、実際問題開けられるものなのでしょうか?」

番屋「キャラクターの身長と比較してみると、10mはありそうですね。現実世界でも、城門などはこれくらいの大きさがありますよね。複数人で開けるイメージでしょう。ところで、蝶番がついているのが見えますね。これだと内開きですが、中は製鉄をしているのですから、外開きのほうがいいんじゃないかなあと思いますね」

MHR たたら製鉄所

鈴木「確かに。この建物の中には入れない仕様なので詳細はわかりませんが、かなり火事の不安がありそうです…!」

番屋「煙を吐き出している煙突も、不燃性のものなのでしょうが、素材が気になりますね」

鈴木「かなりの高温になっていそうですよね」

MHR 屋根の上のスクリーンショット屋根の両サイドにモンスターの頭と思しき飾りがある

番屋「モンスターの屋根飾りは、ちょっと中国的な雰囲気ですよね。沖縄でいうシーサーのような、縁起物なのかなと想像します」

鈴木「確かに。里全体は日本風ですが、ところどころで異国のエスプリを感じます。ところで屋根の素材はなんだと思いますか? 個人的には、討伐したモンスターの皮なんじゃないかと思っているのですが!」

番屋「あ〜、確かにうろこっぽいですね。瓦ではなさそう」

鈴木「他の建築物を見ていても、皮だけでなく牙やツノも活用しているように見えます。親族のモンスターが復讐にやってきて、里全体を焼き払ってしまわないか勝手に心配していました(笑)」

MHR 建築物のスクリーンショットモンスターの素材を生かした建築物のように見える

番屋「本来、屋根のすその部分は揃っているはずなんですが、あえてうねうねと流動的なラインになっているのは、モンスターの躍動感や息遣いを感じさせるような狙いがあるのかもしれませんね。デザイナーさんが、意図的にそうデザインしたのだと思います」

鈴木「なるほど〜! ゲームのデザイナーさんは、リアリティを保ちつつもクリエイティビティを発揮する必要があって、すごく奥深そうですね…」

番屋「今、バーチャル世界における建築設計職が増えてきているんですよ。VRが出てきて、バーチャル世界を探索するようになると、より専門的な設計デザインが求められるので」

鈴木「そうなんですか! 現実世界の法令の縛りを受けずにデザインできるから、別のおもしろみがありそうです。あと10年もしたらますます職種が多様化してきそうですね」

ハンターの疲れを癒やす、藁葺き屋根の家

MHR ハンターの家のスクリーンショットハンターの自宅

鈴木「製鉄所の隣には、ハンターの自宅があります。他の建物と違って、ハンターの家は藁葺き屋根ですね」

番屋「“自宅”という役割が一目でわかるように、あえて民家的な雰囲気にしているんですかね。藁葺き屋根の家って、結構快適なんですよね。吸湿性と通気性に優れ、日本のじめじめと暑い夏を過ごすには、理にかなった素材です。それに地震大国である日本において、屋根が軽いというのはとても合理的なことなんです。ただ、現代では建築基準法によって、屋根は不燃素材で作るよう定められているので、藁葺き屋根の建物は都心部では作れませんが…」

鈴木「火事になるとあっという間に延焼してしまいますもんね…。中に入ると、囲炉裏のあるスペースと、小上がりになった畳の寝室、それから水車の力を利用して餅をついているスペースがあります」

MHR ハンターの自宅内のスクリーンショット魚、肉、野菜などさまざまな食材が干してある
MHR ハンター自宅内のスクリーンショット畳のスペースは一段高くなっていて、すだれを下ろせばプライバシーも確保できる
MHR 自宅内のスクリーンショットモンスターハンターライズの世界では主食として餅が食されている

鈴木「快適そうではあるのですが、真横に川が流れていますよね。生活する上ではとても便利そうですが、このように素朴な木造のおうちは腐ってしまわないのかなと疑問に思いました」

番屋「木は、条件さえそろっていれば、意外と腐らないですよ。室内には仕切りとなる壁もなく、かなり風通しがよさそうなので、問題なさそうです。しいていうなら、入り口のふすまの位置はもう少し高いほうが、雨のときに安心かなと思います」

MHR ハンター自宅内のスクリーンショットハンター自宅内から見た入り口のようす

鈴木「なるほど。ふすまが浸水したら、さすがに傷んでしまいますもんね」

ハンターたちが集う、集会所

MHR 集会所外観のスクリーンショット集会所外観

鈴木「さて、桜のしだれる入り口が特徴のこの建物は、集会所です! ハンターたちはここでお腹を満たし、狩りに出かけていくんですよね。中に入ると真ん中に神木のような大きな幹があって、この大きな木を生かした建築物なのだとわかります。ロマンですね〜!」

MHR 集会所内部のスクリーンショット集会所内部

番屋「こうして見ていると、テーマカラーとして朱色と藍色が効果的に使われているのを感じますね。里全体の日本らしさをうまく引き立てていますよね」

鈴木「ほんとですね。ハンターの自宅も座布団やのれんが、すべて藍色でした。日本で古くから親しまれていて、海外ではジャパンブルーと呼ばれる色味ですね。朱色は神社で多用されるイメージがありますが、調べたところ、魔除けや不老長寿の意味があるようです」

MHR 集会所のスクリーンショット川床のようにせり出したスペースが気持ちよさそう

番屋「桜が満開ですが、ここには日照がないので、造花かと思います。最近は現実世界でも、バイオフィリックデザインといって、室内にグリーン(植物)を入れる設計が人気ですね。ただ、外とは条件が違うので、樹種は選ばないといけないです」

鈴木「見上げると、天井裏がよく見えるのですが、これはどういう作りなのでしょうか」

MHR 集会所の天井のスクリーンショット集会所の天井

番屋「うーん…、組んであるのは竹に見えますね。その上に藁を敷き、さらにその上にドラゴンの皮が乗っているということか。なんだか、“軽い” という藁葺き屋根のメリットを潰してしまっている気がしなくもないですが、屋根というのはさまざまな機能の層が重なってできているものなので、皮には撥水性などの機能が期待されているのかもしれないですね」

鈴木「なるほど。横に伸びる階段をのぼると、2階に上がることができます」

MHR 集会所の二階のスクリーンショット集会所2階の準備エリア

番屋「俗にいうツリーハウスに近いですよね。木の上にある小屋のような。外から観察すると、この準備エリアは集会所の “真上” ではなく、少し横にズレた箇所にあるようですね。改めて観察するとおもしろいですね。自分は建築目線でゲームを楽しんだことがなかったのですが、他の建築家たちはこういうところ気にしながら遊んでるのかな…」

鈴木「いやそんなことないと思いますよ。ところで、木の幹を柱がわりにしているようなデザインですが、生きている木だと想定すると、柱にするのは危ないですよね…?」

番屋「まあそうですね。きっと中にちゃんと柱があって、その周りをリアルな幹の造形で包んでいるんですよ。ディズニーランドなどでよく見ますよね。フェイクも振り切れば、意外と気づかないものです」

鈴木「あ、ああ〜なるほど…。テーマパーク仕様なんですね(?)」

MHR 集会所2階のスクリーンショット集会所2階にある畳のスペース

番屋「奥の畳のスペースは掛け軸のかかった“床の間”があって、書院造かとも思いましたが、本来の書院造は床の間が左にあるので、違いますね。書院造は、厳格に形式が決まっていて、床の間、違棚(ちがいだな)、付書院(つけしょいん)、帳台構(ちょうだいがまえ)の座敷飾りを備えているものです。武家屋敷で採用されていた住宅形式なんですよ」

鈴木「歴史の授業で学んだ記憶がうっすらとあります…! よくよく見たら、真ん中の棚にお布団セットが収納されているので、やはり書院ではなさそうですね」

フィールドの建築物も見逃せない

番屋「そういえば、“大社跡” フィールド内にも特徴的な建物がありますよ。こちらなのですが」

MHR 大社跡フィールド内のスクリーンショット“大社跡” フィールド内の建築物

鈴木「断崖絶壁にある建物ですね!このフィールドはかつて大社があったのですが、今は朽ち果ててしまっている、という設定です。『モンスタハンターライズ』から実装された“翔蟲”(かけりむし)アクションで、このように高いところにも行けるようになったんですよね」

番屋「鳥取県東伯郡三朝町にある、投入堂(なげいれどう)という建築物をモデルにしているのではないかなと思います。国宝指定されているのですが、険しい登山道を登った先の、絶壁の中にあるので、“日本一危険な国宝” と言われています。私も行ったことがあるのですが、すごかったですよ」

投入堂(出典:Wikipedia

鈴木「そっくりですね!! デザイナーさん方の引き出しの多さに脱帽です。そして修行僧がストイックすぎます…」

建築家が考える、賃貸物件を選ぶポイント

ハンターの自宅は「風通しのよさ」が魅力

鈴木「さて、ここまでゲーム内の建築物にあれやこれやコメントをさせていただきましたが、最後に現実世界のお話も伺えればと思います。番屋さんは、ご自身が賃貸物件に住むとしたら、これは外さないという条件はありますか? 個人的なご意見で構いません」

番屋「人によっていろんなこだわりがあると思いますが、私は “風通しのよさ” ですね。先ほどハンターの自宅を見たときにも言いましたが、風通しのよさを実現するためには仕切りのなさが重要なんです。ですから私は、なるべく部屋数の少ない物件を選びます。風通しがよいと気持ちがよいですし、換気しやすいので感染症対策としても有能です。

あとは、単身用ではなく、ファミリータイプのマンションを選ぶようにしています。同じ1Rでも、単身用マンションとファミリータイプのマンションでは、住宅設備の質が違うんですよ。コンロ数が多かったり、追い焚き機能がついていたり」

鈴木「なるほど! 確かにファミリー用の間取りがあるマンションは、エントランスなども豪華に作り込まれていることが多いですね。セキュリティもしっかりしていたり、宅配ボックスがついていたりする率も高めです」

番屋「条件そのものよりも、自分が何を重視するかを正しく理解しておくことが、失敗のない物件選びのポイントだと思います。私は風通しのよさをとても重視するので部屋数が少ないほうがよいのですが、部屋数が多いほうが用途を分けやすくてよいという人ももちろんたくさんいらっしゃると思うので」

鈴木「そういう意味では、お友達など、いろんな方に部屋選びのこだわりポイントを聞いてみると、新しい視点を得られそうですね。今回伺った風通しの観点は、わたしの中ではとても新鮮な意見でした! このたびはありがとうございました」

ゲームの世界とはいえ、建築物の観察を通して、そこに暮らす人たちの生活ぶりを感じることができ、改めてモンスターハンターライズの世界観の奥深さを知ることができました。また、現実世界とゲームの世界を比較することで、デザイナーさんの繊細な仕事ぶりを垣間見ることができたと感じます。

普段何気なく駆け抜けているゲームのフィールドを、みなさんもぜひ一度、足を止めて観察してみてくださいね。

※掲載されている『モンスターハンターライズ』のスクリーンショットの著作権はすべて株式会社カプコンに帰属します。

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