遠藤采とゲーミングスペース

「好き」が最強の武器になる。ゲーム大好きソプラノ歌手 遠藤采のゲーミングスペースを訪問

お部屋は、そこに住む人の価値観が反映された特別なスペースです。今回は、ゲームをこよなく愛す声楽家 遠藤采さんの自室にお邪魔して、仕事との向き合い方や人生を楽しむコツを伺います。

遠藤 采(えんどう さい)●東京都立芸術高等学校卒業。東京芸術大学音楽学部ソプラノ専攻卒業。Game Symphony Japan東京でマリア役(FF6)として東京室内管弦楽団と共演。2017年「艦これクラシックスタイルオーケストラツアー」ソリストとして東京フィルハーモニー交響楽団などと共演。

ゲーマーな、クラシック声楽家

遠藤さんの自室にお邪魔すると、真っ先に目に飛び込んでくるゲーミングスペース。友人とゲームをしたり、配信したり、ゲーム音楽を演奏したり、遠藤さんの人生における大切な時間をここで過ごします。声楽家であり、ゲーマーであり。そのどちらも遠藤さんの大切なアイデンティティです。

− ゲームはいつから好きになったのですか?

「物心ついたときには、もう好きでしたね。8つ年上の姉と4つ年上の兄がよく一緒にゲームしているのを、うらやましく思いながらずっと見ていました。その頃はコントローラーの数の都合で2人までしか一緒に遊べなかったので、見ているしかできなかったんです」

教育方針により、1日1時間までしかゲームができなかったこともあり、ゲームへの欲求を溜めていった遠藤さん。大学へ進学するとそうした制限がなくなり、反動のようにゲームにのめり込むようになったと言います。 遠藤さんいわく、一番好きなゲームはRPG。一時期は「RPGしか遊ばない主義」を貫いているほどだったそうですが、今はいろいろなゲームを幅広く遊んでみるようになったそうです。

膝に腕を乗せることでコントローラーを固定するそう

 

− なぜそのような心境の変化が訪れたのか気になります。

「実はわたしは、音楽に関しても一時期は『クラシック音楽しか聴かない!』と意固地になっていたことがあるんです。昔のことですが……クラシック音楽だけに向き合うことが、誠実な姿勢だと思っていました。けれど、すばらしい演奏家のみなさんが口をそろえて『いろいろな音楽を聴くことが、プラスになる』と言っていることに気づいて考えを改めました。

いざいろいろ聴いてみるようになったら、自分の音楽性も広がりました。なぜ今まで聴いてこなかったんだろうと後悔しましたね。 そういう経験がありながらも、気づいたらゲームも『このジャンルだけ!』というマインドになっていて。あるとき『これじゃ音楽と同じだ』と気づいて、ゲーム仲間たちにおすすめのゲームを聞きました。やってみたら、やっぱりすごくおもしろくて(笑)。先入観にとらわれずに挑戦することの大切さを、改めて感じました」

自慢のゲーム環境

− 遠藤さんはゲーム音楽の演奏仕事もよくされていますが、それはゲーム好きが高じてのことなのですか?

「最初は、そうですね。初めてゲーム音楽をお仕事で演奏したのは、2016年のGame Symphony Japan東京で演奏した、マリア役です。当時は今のように “ゲーム好きな声楽家” を公言してはいなくて、身近な友人だけ知っているような状況でした。そのうちの一人が『ゲーム好きの声楽家を探している人がいるよ』と仕事の話をもってきてくれたのです」

それまで私は、クラシック音楽とゲームは縁遠いものだと思い込んでいました。先ほどの話に通じるのですが、ゲームが好きだと公言していなかったのも、クラシック音楽というアカデミックなジャンルを学んでいる自分が、娯楽であるゲームを好きでいることに引け目を感じていたからなんです。 初めてゲームの演奏会をやったときに、びっくりしました。お客さんがすごく喜んでくれて、それまでの考えが間違いだったと気付きました。ゲーム音楽を堂々と演奏していいんだ、もっと好きになっていいんだって思えて、自分にとって転機になりましたね」

好きなことが、チャンスになる

順調にキャリアを築いていた遠藤さんですが、コロナショックによって大きな打撃を受けてしまいます。

「もちろん、安全が第一ですし、演奏会が中止になることには納得していました。けれど、気持ちの中ではどうしても、自分の存在意義ってなんだろうと落ち込みました。音楽は、真っ先に不要とされてしまうものなのかと。いっそやめちゃおうかななんて考えて、求人を検索したりもしました。

こうなったら思い切り好きなことをやろうと、ゲーム音楽を演奏してYouTubeにアップしてみたり、ゲーム実況動画を撮ってみたりしているうちに、『好きなことを好きなときにできている幸せ』を再認識するようになりました。こうして機材を買って環境を整えたり、動画編集にも挑戦してみたりするのも楽しくて。ジャンルを絞らず、いろいろ挑戦してきた自分だからこそ、こういう楽しみ方ができているのだと気付きました」

大好きだというドラクエのスライムたちに複数のヘッドフォン、デュアルモニター、スピーカースタンドの上に鎮座するスピーカー、そしてコンデンサーマイク。ゲーミングスペースは日に日に遠藤さんのこだわりが反映されていっています。

こだわりは深まっていく一方

 

ついには、動画撮影で利用するグリーンバックまで設置。DIYでレールを天井にとりつけたそうです。

「でも照明がオレンジ系の色味なので、うまく緑色を認識してくれないんですよね(笑)。今度は照明を変えようと思っています……」

好きを掛け合わせて、唯一無二へ

− 最後に、今後の目標を教えてください。

「音楽においては、大好きなクラシック音楽をメインに、ほかのことに対しても “フットワークが軽すぎな歌手” になりたいと常に思っています。また、これからはリモートの仕事が増えていくと思うので、こうしてそろえた録音機材を使いこなして宅録の仕事もどんどんやっていきたいです。

あとはやっぱり、好きなことを堂々と楽しんでいきたいです。ゲームに関しても、実は最近高校生のときからの夢だった大会出場を果たして、やりたいことを少しずつ叶えられていると感じます。あんなに手に汗握り、震えながらコントローラーを持ったのは初めてでした(笑)。好きなことが組み合わさればもっと最高で、将来的には自分の歌が流れるゲームをプレイすることが夢ですね」

遠藤さんのお話を聞き、フリーの音楽家として生き残っていくためには、何か自分らしさやオリジナリティがあることが一つの戦略になるのだと学びました。その要素が「好き」に基づくものであれば、無理なくブランディングしていくことができるから、自然と仕事が舞い込んだという遠藤さんのお話にもうなずけます。

取材中、遠藤さんの愛猫が入ってきては、遠藤さんにすりすりと身を寄せ甘えていました。遠藤さんは大の猫好きでもあって、「猫の毛がたくさんついちゃって大変なんですよ〜」と言いながら目がメロメロでした。そんな様子を見て、ここは本当に遠藤さんの「好き」がいっぱいに詰まった場所なのだなあと心底感じます。このお部屋を拠点に、遠藤さんがますますご活躍されるのを拝見するのが楽しみです。

Written by 鈴木紀子