「好きな作品に登場する街に住んでみたい」そんな夢を一度は抱いたこと、ありませんか? アニメ・漫画・映画・ドラマなどの舞台となった街(=聖地)を巡り、街の特徴や雰囲気をお伝えしていきます。
1991年に少女漫画雑誌「なかよし」で連載開始、翌年にTVアニメ化され、今もなお愛され続ける『美少女戦士セーラームーン(以下、セーラームーン)』。今回は、主人公・月野うさぎが住む街・麻布十番を紹介します。
原作・アニメでたびたび登場する場所を巡るとともに、作者・武内直子先生が以前通っており作中にも登場した日本初の万華鏡専門店にも足を運びました。「高級住宅街」のイメージが先行する麻布十番ですが、インターナショナルで自然豊か、さらに庶民派な一面もあるなどさまざまな顔をもっていました。そんな『セーラームーン』の聖地に潜む “暮らし” をご案内します。
『美少女戦士セーラームーン』
1991年に少女漫画雑誌「なかよし」にて連載開始。翌1992年TVアニメ化。中学2年生の月野うさぎが不思議な黒猫・ルナと出会い、愛と正義のセーラー服美少女戦士「セーラームーン」に変身し、街を襲う妖魔と戦う物語
『セーラームーン』登場人物たちの生活を感じられる麻布十番商店街
『セーラームーン』の舞台になぜ麻布十番が選ばれているのか、それは作者の武内直子先生がかつて住んでいたという理由があります。武内先生のゆかりの地であり『セーラームーン』にもたびたび登場するため、国内外のファンが麻布十番に集まるそう。
まず最初に訪れたのは、聖地巡礼のスタート地点「麻布十番駅」です。麻布十番駅は東京メトロ三田線と都営大江戸線が通っています。両線合わせた1日の平均乗降人員は約86,000人。私が訪れたのは平日の朝でしたが、多くのビジネスマンが通勤のため駅を利用していました。

『セーラームーン』に登場する「十番商店街」ならぬ「麻布十番商店街」へ向かうため、4番出口から外へ出ます。アーチ状の透明な屋根と時計、細長い複数本のオブジェが目印です。オブジェの場所には以前「麻布十番商店街」と書かれたモニュメントが置かれていて、『セーラームーン』のマンガ・アニメどちらにも描かれていました。
“ほほえみの街・麻布十番”、“住みつづけたい街・麻布十番” をコンセプトにつくられている「麻布十番商店街」。服飾・雑貨店、カフェ・食事処、古美術店・ギャラリー、病院・薬局店、美容室など、懐かしさを感じる老舗からトレンドを抑えたオシャレな新店まで幅広いお店が軒を連ねます。その数なんと60店舗!(2021年6月時点)商店街を巡るだけで1日を過ごせることができそうですね。24時間営業の「ダイエー」もあり、帰りの遅い方でも安心して買い物できます。
そんな数あるお店の中で私が向かったのは、麻布十番大通りに面する「マクドナルド 麻布十番店」。「え、なんでマクドナルド?」と思ったそこのあなた、実はこの場所も『セーラームーン』の聖地なのです。正確には、うさぎや仲間たちが遊びに行く「ゲームセンタークラウン」として作中に描かれています。マクドナルドが建つ前にあったパチンコ店「クラウン」がモデルになっていました。

マクドナルドを通過しまっすぐ進むと美味しい香り漂うパン屋「麻布十番モンタボー 本店」が見えてきます。そこの道を左に進むとあるのが、麻布十番商店街の象徴・多目的広場「パティオ十番」です。さまざまなドラマやCMのロケ地にも使用される場所で、テレビで見たことのある人も多いのではないでしょうか。

そして、パティオ十番に佇む「きみちゃん像」もまた『セーラームーン』の聖地の1つ。アニメ『美少女戦士セーラームーンS』第8話ではうさぎの想い人・地場衛(タキシード仮面)と友達・水野亜美(セーラーマーキュリー)がきみちゃん像の前で話すシーン、アニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』第5話ではうさぎと亜美ともう1人の友達・木野まこと(セーラージュピター)が待ち合わせするシーンで描かれるなど、『セーラームーン』の世界には何度も登場する場所です。

「火川神社」のモデル地と、うさぎが「ちびうさ」と出会った公園へ
続いてめざすのは、うさぎの友達でセーラー戦士の一人・火野レイ(セーラーマーズ)が住む「火川神社」のモデル地となった「麻布 氷川神社」です。パティオ十番の階段を登ると「大黒坂」という坂が見えてきます。大黒坂を登ると商店街の賑やかさから一変、一軒家やマンションが建ち並ぶ住宅街に。大きなマンションや学校などが並ぶ閑静な住宅街ですが、少しインターナショナルな雰囲気を感じます。
というのも、麻布十番駅から徒歩10分程度内の範囲には、20以上もの大使館や領事館などの施設があります。そのため、外国人居住率が高く、外国人向けマンションやスーパーマーケット、インターナショナルスクールが建ち並んでいるのです。また、大使館が多いことから警察関係者が常日頃から警備やパトロールをしているので、治安も安心できると思います。
そして、大使館の一つ「駐日アルゼンチン共和国大使館領事部」の目の前にあるのが「麻布 氷川神社」です。神社の名前の書かれた石碑と大きな鳥居は『セーラームーン』の作中にも登場しています。

「麻布 氷川神社」は「火川神社」の入り口のモデル地であり、境内のモデル地は「赤坂 氷川神社」だと言われています。興味のある方はそちらにも足を運んでみてはいかがでしょうか。
そして、麻布地域には寺院や神社なども多数あります。麻布地域は海を見下ろす南向きの高台に位置し、神様や仏様を祀るのに相応しいと判断されたことから寺社が多いのだとか。住んでいるだけでご利益を感じられそうですね。
「麻布 氷川神社」からまた道なりに沿って歩き、交差点を右に進むと緑豊かな「麻布運動場・野球場」が見えてきます。この運動場の先にある、これまた緑の生い茂ったとても広い「有栖川宮記念公園」が、続いての聖地です。うさぎと衛が待ち合わせをするシーンや、ちびうさとの出会うシーンなど作中に数多く登場します。

都会のど真ん中にありながら、自然豊かで四季折々の草花や野鳥が楽しめる日本庭園「有栖川宮記念公園」。子どもが元気いっぱい遊べる児童コーナーや広場、大人も癒される風情豊かな池や季節の移ろいを感じられる梅林・花菖蒲園などがあります。訪れた時期が梅雨だったため、紫陽花がとてもキレイでした。ほかにも敷地内には国内の公立図書館では最大級の約180万冊を所蔵する「都立中央図書館」もあります。

「有栖川宮記念公園」内にある階段を下り、大きな池をめざすと「広尾口」という出入口があります。ここから徒歩3分で広尾駅へ行くことができます。

「有栖川宮記念公園」は麻布十番駅からは徒歩17分とやや長距離ですが、『セーラームーン』の聖地を巡りながらだとあっという間に感じました。都会の中心にありながら自然を満喫でき、一人でも家族とでもパートナーとでも楽しむことができる、貴重な場所だと思います。犬と暮らす人にとっても、すてきな散歩コースになりそうです。
「カレイド・ムーン・スコープ」が生まれた場所?
『セーラームーン』聖地巡礼の締めを飾るのは、うさぎとちびうさが衛におそろいの万華鏡を買ってもらった「万華鏡専門店カレイドスコープ昔館」。パティオ十番からほど近い位置にあり、アンティーク調の外観が目を引くこのお店は、日本初の万華鏡専門店です。1994年にオープンし、国内外の万華鏡作品を取りそろえています。

店内に足を踏み入れてみると、さまざまな万華鏡がところ狭しと置かれています。なじみ深い筒状の万華鏡だけでなく、アクセサリーとして使えるものやインテリアになりそうなものなど、初めて見る形状の万華鏡がいっぱい。その数なんと600点以上。



店内では、店長の石原達也さんが笑顔で出迎えてくれます。開店当初からお店を支え続けている石原さんに『セーラームーン』や麻布十番についてお話を伺いました。
「開店当初の麻布十番は地下鉄も通っておらず “陸の孤島” と呼ばれていて、物販のお店はほとんどありませんでした。そんな中、『セーラームーン』の原作者・武内直子先生がお客さんとしていらっしゃっていたのです。僕には娘がいたので『セーラームーン』はもちろん知っていたため、領収書で名前を拝見したときに気がつきました。
それで、娘と一緒にアニメを見ていたら『カレイド・ムーン・スコープ』と出てくるじゃないですか。当時は “カレイドスコープ” という言葉自体がメジャーではなかったので驚きました。うちのお店が作品に影響を与えたのではないかと僕自身は思っています(笑)」

−お店には『セーラームーン』ファンの方たちも訪れるのでしょうか?
「全世界から来ますよ。もともと大使館・領事館などが多い街なので、海外からのお客さんは多かったんです。そして、数年前から聖地巡礼が流行り始めて『セーラームーン』ファンの人たちが国内外問わずいらっしゃるようになりました。海外から来る方たちは、みなさん日本語がお上手で。『セーラームーン』を好きになって、日本語を勉強して日本に来るんですよ。アニメの力のすばらしさをとても感じています」

−『セーラームーン』ファンに人気の万華鏡を教えてください。
「うちに置いてある商品は、すべてアーティストの手づくりなので、都度商品が変わっていきます。その中でも『セーラームーン』のような可愛らしい、キラキラとしたイメージの作品は人気ですね。例えば、ネックレスタイプの万華鏡。これは2020年12月に発売されたスポーツニッポン新聞社の『劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」新聞』のプレゼント企画でも出していました。新聞を見て、買いに来るお客さんも多いです」


「ネックレスタイプには、黒猫モチーフの商品も。『セーラームーン』に登場するルナみたいだと買われる方が多いですね。ネックレスタイプはテレイドスコープといって、先端に特定のオブジェクト(ビジューやビーズなど)を使わず、透明なレンズなどを用いて覗いた風景が万華鏡模様に映し出されます」

「『セーラームーン』ファンの人たちが魅力に感じるような万華鏡もつくりました。先端にはパステルカラーをメインにしたキラキラのオブジェクトを使っています」


−『セーラームーン』だけでなく、お店のファンになる方も多そうですね。
「近所の方から有名人まで、本当に色んな人が来ますよ。万華鏡ってどうしても昔ながらの筒状のものをイメージされることが多いのですが、ここには見たこともないような万華鏡がたくさんありますからね。自分用に買っていく人もいれば、プレゼント用に買っていく人も多いです。一度買った方からの反響もたくさんあります」


−最後に、石原さんから見て麻布十番はどのような街だと感じるか教えてください。
「大使館があるから、外国人の方も多く住んでいてインターナショナルな街。それでいて、この街にはよい人ばかりなので、夜中に出歩いてもすごく安全です。交通面も商店街のお店の豊富さもすべて含めて、すごく便利な街だと思いますよ」

駅前には多くの店舗が密集する「麻布十番商店街」、駅から少し離れると都会で豊かな自然が感じられる「有栖川宮記念公園」とさまざまな顔をもつ麻布十番。外国人が住むことを想定しているからか、オシャレで個性的な造形のアパートやマンションも多くありました。家賃相場は港区価格で少し高めですが、治安のよさや交通利便性などの住みやすさを求める人、飽きずに長く住める場所を探している人にはとてもオススメの街ではないでしょうか。
また、麻布十番商店街では過去に「美少女戦士セーラームーンCrystal×麻布十番商店街スタンプラリー」の開催やショーレストラン「美少女戦士セーラームーン -SHINING MOON TOKYO-」がオープンするなど、町をあげて『セーラームーン』の魅力を発信しています。今後も『セーラームーン』関連の催しが実施される可能性は高いため、ファンの人にとっても住みよい街かもしれませんね。
※聖地巡礼をする際は住民の方の迷惑にならないようルールを守ってお楽しみください。また、新型コロナウィルス感染防止対策を徹底した上でお出かけください。
【インフォメーション】
「万華鏡専門店カレイドスコープ昔館」
https://www.brewster.co.jp/
住所:東京都港区麻布十番2丁目13−8 COCOハウス1F
営業時間:平日11:30~20:00 日祝12:00~18:00(火曜日定休日)
※新型コロナウイルス感染拡大により、現在の営業時間は12:00~18:00(火曜定休日)
Text by 阿部裕華 Photo by 松井和幸