新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにリモートワーク・在宅ワークを取り入れる企業が増え、より仕事がしやすい環境を目指して、自宅にオフィスチェアを置く人も増えています。しかし、オフィスチェアを自分で選ぶのは意外と難しいもの。どうやって選べばよいのかわからず、つい購入を先送りにしている方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、インテリアのプロにオフィスチェアの選び方を教えていただきました!

取材をおこなった場所は、IDC OTSUKA 大阪南港ショールーム。4万点以上のアイテムが展示されている西日本最大級のインテリアショールームで、もちろんオフィスチェアの品揃えも非常に充実しています。オフィスチェア選びに最適なこの場所で、シニアアドバイザーの本村秀一さんに、オフィスチェアを選ぶポイントからおすすめのオフィスチェアまでをじっくり伺いました。
前編であるこの記事では、「オフィスチェアを選ぶ際にまず考えるべきこと」からスタートして、自分にぴったりのオフィスチェアを選ぶコツや快適な在宅ワークスペースづくりのポイントを教えていただきます。賃貸物件でリモートワークをおこなう方が注意したいこともお伝えしますので、ぜひチェックしてください!
リモートワークに最適なオフィスチェア選びは、「いつもの自分」を知ることから

− 本村さん、さっそくオフィスチェアの選び方を教えてください!まず、どういったところからチェックすればよいですか?
「チェア選びにお越しになると、やはり皆さん、とにかく座ってみたくなりますよね。でも、何よりもまず確認していただきたいのは、チェアではなく、ご自身の普段の姿勢です。チェアに座るとき、前傾姿勢になっているのか、後傾姿勢になっているのか。いつもの姿勢をイメージしてもらうことで、ご自身に合ったチェアが選びやすくなります」
− いきなりチェアを見るのではなく、まずは自分に注目するのですか?
「はい。たとえばキーボード入力をしたり、書類を書いたりするときは、自然と前傾姿勢になりやすいです。こういった作業が多い方は、前傾姿勢をキープしやすいかどうかを考えてチェアを選ぶのがおすすめです」

「最近では、モニターのサイズが大きくなったことで、後傾姿勢でパソコンを操作する方も増えています。小さめのモニターだと前かがみになって画面に集中することになりますが、ワイドモニターの場合は前かがみだと逆に疲れてしまいます。在宅ワークで大きなモニターを利用されている方は、後傾姿勢で座りやすいかどうかをチェックしてみてください」
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座り比べるときから、しっかりとフィッティングを!
− 自分の姿勢がわかったら、ついに座り比べですよね。どんなことに気をつければよいでしょうか?
「座っている姿勢というのは、とても緊張した姿勢です。高機能なオフィスチェアでは、この緊張姿勢をできるだけ快適に保つために、アームの位置や背中のサポート、座面の位置などが調節できるようになっています。チェアを選ぶ際には、これらのパーツを適した位置に設定した状態でフィッティングすることが大切です」
− なるほど!売り場に置いてある状態のままで座り比べても、あまり意味がないということですね。具体的なフィッティングの方法を教えていただけますか?
「まずは、腰と背もたれがぴったりフィットするように、深く座ります。その状態で、座面を調節しましょう。ひざの部分が直角になるように、高さを調節します。このとき足が地面から浮いてしまうなら、フットレストを置いてあげるといいですよ」

「次に、座面の前後位置を調節します。座面の先端と脚とのあいだは、指2本ほど空けるくらいがちょうどいいです。この部分に隙間がないと疲れてしまいますので、座面の前後位置を変えられるものを選ぶと快適です」

「次にアームレスト(ひじ置き)を調節しましょう。アームレストは、ひじが90度になるポジションに設定するのが好ましいとされています。デスクと同じ高さ、もしくはデスクよりも1cm低い程度の高さが自然なアームレストの高さだと考えています」

「腕の角度にも注目してください。キーボード入力をするときや書類を書くとき、スマートフォンを見るときなど、腕がハの字になっていることが多いと思います。この状態の腕を支えられるように、アームレストの角度もハの字に調整できるものを選ぶと、とても楽ですよ!」

「こうやってアームレストの重要性をお話ししていますが、たとえばイラストレーターさんなど、チェアを机の下に深く入れ込んで作業したい方にとっては、アームレストが邪魔になってしまうかもしれません。各機能の重要性は、やはりその人によって違います」
− なるほど、やはりリモートワーク中の自分の姿勢を知っておくことが大切なのですね。
「この状態で、前傾になったり後傾になったり、いろいろな姿勢を試しながら、背中のサポート感も感じてみてください。背中のサポートは、前傾姿勢を保つための大切な要素です。メーカーによって、また製品によってサポート感が異なります。強ければよいというわけではないので、やはり座り比べて、ご自身にしっくり来るものを選んでいただくことが大切です」
快適な在宅ワークスペースづくりのカギは「自宅の環境を考慮すること」
− しっかりフィッティングしながら選ぶことが大切だとわかりました。職場ではなく自宅に置くからこそ注意しておきたいポイントはありますか?
「職場は空調が効いていて、湿度もコントロールされています。自宅の環境は、必ずしも職場と同じではありません。自宅は自宅として、環境に合わせたチェアを選ぶのがポイントです」
− 確かにそうですね。具体的にはどういった部分に関係してきますか?
「たとえば、座面の素材をメッシュとクッションから選べるチェアがあります。メッシュタイプだと座面のムレを感じにくく、クッションタイプには安定感があるなど、両方にメリットがありますが、大切なのはご自宅の環境を想定して選んでいただくことです」


「職場の環境を想定してクッションタイプを選んだけれど、ご自宅が職場よりも暑くて湿気も多く、座面のムレを感じてしまうというケースもあります」
− なるほど!オフィスチェアだからといって、職場と同じものが適しているとは限らないのですね。
「ご自宅の環境次第では、食卓でお仕事をなさる方もいらっしゃると思います。そこであまりにも『職場』感のあるチェアを選んでしまうと、お部屋の雰囲気に調和しないかもしれません。こうした場合は、ボリューム感のあるものよりも、コンパクトでスタイリッシュなものをお選びになるのがおすすめです。機能に加えて、デザイン面も重視してみてください」
− 確かに、オフィスチェアの選び方で、お部屋全体の雰囲気が変わりそうですよね。
「在宅勤務では、オンとオフの切り替えも重要だと思います。リクライニング機能の充実したものを選び、大きめのヘッドレストを付けるのはいかがでしょう。お仕事のときはまっすぐな姿勢をキープし、リラックスタイムには深くリクライニングしてテレビや映画を見るといったように、うまくオン・オフを切り替えられますよ」

− オフィスチェアは仕事だけでなく、くつろぐことにも向いているのですね!
「もしかすると、ソファよりも快適かもしれません(笑)。ワンルームなどでじゅうぶんなスペースが取れない場合は、高機能なオフィスチェアをソファ代わりにするのも一つの手段ですね」
賃貸暮らしの人が気をつけるべきことは?
− 賃貸物件に暮らしている人がオフィスチェアを購入するにあたって、特に気をつけることはありますか?
「必ずおこなっていただきたいのが、床のキズ対策です。オフィスチェアにはキャスターが5つほど付いていますが、そこに体重がかかるので、どうしてもフローリングが傷んでしまうのです。お仕事中、座ったままチェアを動かす機会もありますよね。特にクッションフロアだと、ぐっと凹んでしまうこともあります」

「この問題を防ぐ方法の一つは、チェアの動く範囲に樹脂製のフロアマットを敷くことです」

「見た目を重視するなら、ラグを敷くのもおすすめです。ラグなら、気に入ったものをいくつか揃えて、気軽に模様替えすることもできますね」

「そしてもう一点気をつけていただきたいのが、搬入のことです。配送の際に玄関渡しを希望される方もおられますが、オフィスチェアの場合、玄関渡しにはリスクがあります。というのも高機能チェアは、組み立てられた状態で配送されてきます。なかなか大きいので、搬入の際には工夫が必要なのです。
加えてとても重いので、一人で持ち運ぶのは難しい。お部屋やチェアにキズをつけてしまわないよう、お部屋までの搬入・設置の依頼をおすすめします」
− 床のキズ対策とお部屋までの搬入、この2点に注意ですね。特に、搬入のことは盲点でした! お部屋に設置するところまでプロにお願いすることが大切なのですね。
オフィスチェアに関する素朴な疑問&その答え
「オフィスチェア選び」というめったにない経験の中では、いろいろな疑問が生まれてきます。多くの方が抱くであろう疑問を、本村さんにぶつけてみました。
Q そもそも、どこで実物を試せるの?
− 選び方のポイントを伺って、自分に合うチェアを見つけるには、実際にいろいろな製品に座ってみることが不可欠だとわかりました。しかしオフィスチェア選び初心者としては、「座りに行くべき場所」自体がわからなくて……。
「各メーカーのショールームに行くという手段もありますが、メーカーのショールームでは、そのメーカーの製品しか試せません。ご自身にぴったりのチェアを選ぶには、やはり様々なメーカーのチェアを座り比べられるような場所に行くことが大切です」
− するとまず足を運ぶべきなのは、大塚家具のようなインテリアショップなのですね。
「そうですね。大塚家具では、700種類以上のオフィスチェアを取り扱っています。ショールームに来ていただければ、幅広いラインナップのなかからお一人おひとりのご要望やご環境に合ったチェアをおすすめできます」

Q インターネットオークションやフリマアプリで買っても大丈夫?
− オフィスチェアは決して安いものではありません。インターネットオークションやフリマアプリを使って、高級オフィスチェアを少しでも安く入手したいと考える方もいらっしゃると思います。インテリアのプロから見て、こうした方法でオフィスチェアを買うことはどう思われますか?
「オフィスチェアは、動く箇所が多く、体重がかかる家具です。使っていくうちにガスシリンダーなどにも負担がかかっていきます。細かい部分の状態を確かめられないと、ちょっと心配ですね」
− 確かに、せっかく安く買えても修理代がかかってしまうと悲しいですね。
「修理というとメーカーに問い合わせるイメージがあるかもしれませんが、オフィスチェアの場合は購入店を通して修理を依頼するのが一般的。だから、オークションやフリマなどで中古購入していると、快く受け付けてもらえない場合があるのです。結果的に修理費用がかさみ、トータルで見るとかえって高くつくこともあります」
− そのデメリットは、まったく想定していないものでした! 信頼できるお店で購入するのが、結果的には一番お得になりそうです。
Q 高級オフィスチェアって何がすごいの?
− オフィスチェアというと、価格の幅が広いですよね。10万円を超えるようなオフィスチェアというのは、廉価なチェアと比べてどういった部分が優れているのでしょうか?
「まず挙げられるのは、機能の多さです。リクライニングの調整、座面奥行調整、前傾機能、広範囲に動くアーム、背中のサポートなど、高級なチェアほど機能が充実します」
− さまざまな部分が細かく調整できると、より自分にフィットさせやすいですね。
「デザインの面でも違いがあります。高級なチェアのデザインは、デザイナーの方が何年もかけて考案されたもの。その分価格が高くなります。個人的意見ですが、高級チェアは後ろ姿が美しい! たとえばバロン、コンテッサ、エレアなど、オフィスメーカーが自信をもって作った商品は、後ろから見た姿が非常に美しいです」

− 確かに! フォルムの美しいチェアがお部屋に置いてあるというだけで、モチベーションが上がりそうです。
「私が大塚家具に入社して一番に購入したのは、オカムラのコンテッサでした。今でも自宅に置いています。そのチェアで仕事をすることはないのに(笑)」
− 高級チェアには、心を豊かにしてくれるという機能もあるのかもしれませんね。
知れば知るほど奥深い、オフィスチェアの世界
今回の記事では、オフィスチェア選びのポイントや自宅のワークスペースを快適にするコツをお伝えしました。仕事に取り組みやすい環境を築くためには、「自分が何を求めているか」をきちんと知ることが大切なのですね。また、実際に椅子に座って見て確かめる大切さも教えていただきました。
続く後編では、本村さんにおすすめいただいたオフィスチェアを具体的にご紹介します。さまざまなニーズに合わせて、機能やデザインに優れた9つの製品を取り上げますので、ぜひ併せてチェックしてくださいね。
(後編は2021年3月15日公開予定です)
Text&Photo by 瀬良 万葉