「好きな作品に登場する街に住んでみたい」そんな夢を一度は抱いたこと、ありませんか?
アニメ・漫画・映画・ドラマなどの舞台となった街(=聖地)を巡り、街の特徴や雰囲気をお伝えしていきます。
今回は、2016年に公開された新海誠監督のアニメーション映画『君の名は。』の舞台・四ツ谷〜新宿エリアを紹介していきます。
『君の名は。』には2つの聖地が登場します。1つは三葉が暮らす岐阜県飛騨地方。もう1つは瀧が暮らす東京都新宿区です。この聖地の中から、本作のラストシーンに描かれる新宿区若葉町と須賀町、瀧のアルバイト先のモデルとなった新宿一丁目のレストランに足を運んでみました。
喧騒に包まれているイメージの強い四ツ谷〜新宿エリアですが、聖地を辿ると意外な一面が垣間見えてきました。すでにご存知の方も多いであろう『君の名は。』の聖地に潜む、“暮らし”をご案内します。
※本記事には重大なネタバレを含みますので、ご留意ください。
『君の名は。』
2016年8月公開。岐阜の田舎町に生活し都会に憧れを持つ女子高校生・宮水三葉と東京に生活する男子高校生・立花瀧。1,000年に一度のすい星来訪が日本に迫るとき、見知らぬ者同士だった二人が奇妙な夢を通じて導かれていく。日本国内の興行収入250.3億円、日本の興行収入ランキング5位(2021年1月時点)
『君の名は。』のラストシーンに描かれる新宿区須賀町・若葉町
『君の名は。』の公式ビジュアルガイドには、瀧の自宅は新宿区若葉町にあると記載されており、四ツ谷駅周辺や若葉町周辺が劇中に数多く登場します。その中から最初に訪れたのは、物語終盤に登場する、とある場所です。
お互いのことを忘れて大人になり、東京でそれぞれの生活をしている瀧と三葉。そんな二人の乗った電車が偶然にも並行し、目と目が合い、衝動的にお互いを探し合うという展開に。三葉が乗っていたのはJR総武線、瀧が乗っていたのはJR中央快速線で、並行した場所はおそらく千駄ヶ谷駅~信濃町駅間でしょう。三葉は信濃町駅、瀧は新宿駅で降り立ち、二人が向かった先は若葉町・須賀町でした。
若葉町・須賀町の最寄り駅は四ツ谷駅、四谷三丁目駅、信濃町駅の3つ。私は四谷三丁目駅方面から新宿通り(甲州街道)を歩いて聖地へ向かいます。
まず辿り着いたのは、新宿通りから四谷二丁目と三丁目の境界を進んだ場所にある「円通寺坂」です。劇中では新宿方面から瀧が走ってくる場所として映ります。二又に分かれた道と中心に設置されているポストが特徴的な緩やかな坂。二車線の中心から若葉町と須賀町で分かれており、新宿通りから向かって右の細い道が須賀町方面、左の太い道が若葉町方面に繋がっています。

円通寺坂から若葉町方面へ向かうと左手に見えてくる「東福院坂(別名:天王坂)」も聖地の一つ。信濃町駅方面から来た三葉が駆け上がるシーンに登場する場所です。新宿通りから四谷須賀神社へ続く坂道で、円通寺坂と比較すると傾斜があり道幅の狭い坂です。

そして、東福院坂のふもとから見える赤い手すりが目印の「須賀神社男坂」は、瀧と三葉が最終的に落ち合う場所として劇中に登場します。『君の名は。』のキービジュアルにも描かれており、作品の象徴とも言える場所です。

須賀神社は土木建築・悪霊退散・諸難・疫病除けの神である須佐之男命(須賀大神)と五穀豊穣・開運招福・商売繁盛の神である宇迦能御魂神(稲荷大神)の二柱の主祭神がまつられていて、この地の住民にご利益を与えてくれています。
代々巫女家系である三葉の力とこの地に住み続ける瀧が得ていた神様のご利益が合わさり、二人は再会を果たすことができたのかもしれません。
須賀町・若葉町は都会だけど歴史を感じる街
須賀町・若葉町は、民家・アパート・事務所の小さなビル・個人商店が連なる閑静な住宅街の中に「坂」と「寺院」が多いのが特徴です。
須賀町・若葉町が位置する“四谷”の地名は「千日谷・茗荷谷・千駄ヶ谷・大上谷の四つの谷」が由来の一つであったり、地形的に新宿通りが尾根を形成していたりすることから多くの坂があるといわれています。今回訪れた円通寺坂・東福院坂・須賀神社男坂のほかにも、周辺には「須賀神社女坂」「鉄砲坂」「戒行寺坂」「観音坂」「闇坂」などが存在します。歩いているだけでちょっとした運動になります。
また、須賀町と若葉町二丁目はかつて「南寺町」「寺町」という旧町名でした。その名の通り新宿区内の寺院の多くがこの地域に集中しており、周辺には20近くの寺院がありました。『東海道四谷怪談』で有名な“お岩さん”にゆかりのある「陽運寺」や江戸幕府を築いた徳川家康にゆかりのある「西念寺」など背景を知ると面白い寺院が数多く、歴史巡りが楽しめそうです。
歴史を感じる一方、新しいアパートやマンションなどもいくつか発見。個人オーナーが経営しているであろう、こだわりを感じられる賃貸物件を多数見かけました。人と違う物件や隠れたオシャレ賃貸物件が見つかるかもしれません。
住みやすさと交通の便は切っても切り離せませんが、この町はJR中央線快速・総武線各駅、東京メトロ丸ノ内線・南北線「四ツ谷駅」、東京メトロ丸ノ内線「四谷三丁目駅」、総武線各駅停車「信濃町駅」以外にも、新宿通り出ると「四谷二丁目」バス停留所があり、魅力的。同時に、どの駅からも10分ほど歩くこと、大通りから外れていることから都内にしてはそれほど賃料の高くない物件が多いのもポイントです。駅から少し外れていても大通りに面していれば夜道を歩くのも安心ですね。

住宅街である須賀町・若葉町内に飲食店やコンビニ・スーパーは少ないのですが、新宿通りに出ればチェーン店を含めた多くのお店が軒を連ねるため、一人暮らしの方でも買い物や外食に困る心配はないでしょう。

瀧のバイト先のモデルとなった「カフェ ラ・ボエム 新宿御苑」
須賀町・若葉町をひとしきり散策した後に向かうのは、瀧がバイトをしているお店のモデルとなった「カフェ ラ・ボエム 新宿御苑」。須賀町・若葉町から新宿通りを新宿御苑方面に真っすぐ進み、新宿御苑大木戸門を通り過ぎた場所にある一面ガラス張りが特徴的なイタリアンレストランです。


お店に入るとまず目に飛び込んでくるのが、客席と厨房を繋ぐ大きな階段。『君の名は。』の劇中に、瀧が配膳しているシーンで登場します。

2014年に放送されたTVドラマ『失恋ショコラティエ』のロケ地としても使われたカフェ ラ・ボエム 新宿御苑。高い天井にシャンデリアがつるされた洋館風の店内からは新宿御苑の美しい自然が年中一望できます。

今回はカフェ ラ・ボエムのオススメメニューであるパスタ『元祖辛子明太子』をいただきます。パスタ一本一本にたっぷり絡まる明太子ソース、口の中はまさに至福…。麺は浅草開化楼開発の低加水パスタフレスカを使用しており、少し太めでモチモチとした食感の生パスタにお腹も心も満たされます。

「実は辛子明太子のパスタを日本で最初に提供した飲食店は、カフェ ラ・ボエムと言われています」とカフェ ラ・ボエム 新宿御苑 店長の山本弓彦さんは言います。

「明太子とバターを使用したオリジナルのソースを生パスタにたっぷり絡めた満足度の高い人気商品です。弊社の料理監督をしているディレクターがどのお店の環境にも最適なパスタのゆで時間を決めているため、一番美味しい状態の麺のかたさを召し上がっていただきます。青ネギと海苔をトッピングしていますが、追加で小ヤリイカをトッピングしていただくのもオススメです」
ー ほかにもオススメのメニューはありますか?
「ランチは本日召し上がっていただいているパスタのランチセットやピザ窯で焼いた『マルゲリータピザ』ですね。夜ですと『ブラータチーズのカプレーゼ』がオススメです。カプレーゼは湯むきしたトマトを自家製のトマトドレッシングに漬けてマリネにしています。トマトドレッシングはランチセットのサラダにも掛かっていて、ドレッシングを購入されるお客様もいらっしゃいます」

ー カフェ ラ・ボエム 新宿御苑はどのような方が利用されているのでしょうか?
「昼は新宿御苑へ観光に来られた方や近辺で働かれている方、夜は地元の方がいらっしゃいます。店内には広めのソファ席もあるので、小さいお子様連れの方も気軽にお越しいただけると思います」
ー 地元の方が多いんですね。
「10年以上通われている常連のお客様は多くいます。そのため、常連の方の好みに合わせたメニューをお出しすることも。例えば『シーザースサラダ』というメニューにかかっているチーズをコショウに変更されるといった方の好みをメモしておいて、ご来店された際にはお出しできるようにしています。長く通われている方は色々な食べ方を試していただけるので、新しく入ったウエイターの子には必ず『新しい食べ方を常連のお客様へご提案するように』と教えています」

ー 最後に、新宿エリアをよく知る店長さんから見た、この街の印象・魅力について教えてください。
「優しい人がとても多い街です。僕はこのお店に来て5年ほど経ちますが、ここに住んでいるのではと思うくらい知り合いが多くて(笑)。住みやすい街だと思います。また、都会でありながらも自然が多いのも魅力ではないでしょうか。新宿御苑のような自然豊かで大きい公園がある街も珍しいと感じます。春夏だけでなく、秋冬も緑が多いのも素敵です。
あと個人的に喫茶店が好きで、この周辺は喫茶店が多いので、色々な場所に足を運んでいます。昔ながらの喫茶店が好きな方にオススメの街ですよ」

『君の名は。』の聖地を巡っていくと、歴史を感じられる街や緑の豊かな街など、都会の喧騒のイメージとかけ離れた四ツ谷〜新宿エリアの一面を見ることができました。「都会から離れたくないけど、少し静かな場所に暮らしたい…」と思う方には住みやすい場所ではないでしょうか。
※聖地巡礼をする際は住民の方の迷惑にならないようルールを守ってお楽しみください。
【インフォメーション】
「カフェ ラ・ボエム 新宿御苑」
https://boheme.jp/shinjuku-gyoen/
住所:東京都新宿区新宿1-1-7 コスモ新宿御苑ビル 1F/2F
営業時間:平日 11:30〜23:30/土日祝日 11:00〜23:30/ランチタイム 11:30〜14:00(平日のみ)
定休日:無休
Text by 阿部 裕華 Photo by 星野 佑