お部屋は、そこに住む人の価値観が反映された特別なスペースです。今回は、ひょんなことからシェアハウスでの生活を経験し、その魅力を知って以来シェアハウスに住み続けているというKさんのご自宅を取材させていただきました。
ひとえにシェアハウスと言っても、入居するシェアハウスによって特徴はさまざまなのだそう。賃貸物件での一人暮らしと、シェアハウスでの一人暮らしにはどのような違いがあるのでしょうか。また、こだわりの自室についてもご紹介いただきました。
「本」をコンセプトとしたシェアハウス
Kさんが入居するのは、大きな団地群の一つの、さらに1フロアのみを改築して作られたシェアハウス 。「読む団地」というコンセプトのもと、リビングダイニングや廊下などあちこちに設置された本棚に約1,000冊の本が並んでいます。入居者さんたちは、このたくさんの本を通し、交流のきっかけを得ているんだそう。


地域との交流に活用できる「コミュニティラウンジ」の存在も、本シェアハウス の大きな特徴です。本格的なキッチンを備え、本と料理のイベントで絵本にでてくるパンケーキを作ったり、みんなで選んだレシピ片手に食材探しに出かけたりという楽しみ方も。


先述したように、こちらのシェアハウスがあるのは1,374戸の住戸を抱える巨大な団地群の一角。今は新型コロナウィルスの影響でなかなか活躍の機会が得られないものの、いずれは地域コミュニティの重要な一角を担うに違いないと感じました。
さて、前置きが長くなりましたが、今回お話を伺うKさんは、なぜこのユニークなシェアハウスへの入居を決めたのでしょうか。
7年間のシェアハウス生活を通して得たものは……

「実はここで、5箇所目なんです。シェアハウスで暮らすの」
お仕事の都合で2年に一度引越すことが多いというKさんが、そう切り出します。
「学生時代は兄とUR賃貸住宅に住んでいたのですが、兄が結婚することになり、大学卒業まで間もないタイミングで一人暮らしをすることになって。短期間ならと思って、シェアハウス を検討したのがきっかけです。いざシェアハウス に住んでみたら、めちゃくちゃおもしろくて。学生だった自分では到底接点をもつことがないであろう人たちと交流をもつことができ、とても刺激的だったんです」
就職後、最初の勤務地が大阪になったKさんは、1年間の寮生活ののち、京都のシェアハウスに入居。ここでもすばらしい出会いに恵まれました。
「建築関係のしごとについたので、建築士の資格勉強をずっとしていたのですが、シェアハウスでできた仲間たちには支えられました。本来であれば、転勤で知らない土地に住むことになった場合、なかなか友達をつくるのが難しいと思うんです。でもシェアハウスでは共用部にいるだけで自然と会話が生まれて、空いた時間を気兼ねなく一緒に過ごせて、本当に充実していました。今でもたまに京都に行って遊ぶほどなんですよ」
− その後も転勤を期に、シェアハウス を転々としていったかたちですか?
「次は名古屋でした。京都の仲間と離れるのが寂しくて、最初は名古屋まで通おうかと思ったくらいなのですが、結局名古屋のシェアハウス に新たに入居しました。ここは、一軒家に13人が暮らすタイプのシェアハウスで、構造も特徴的なんです。そのせいか、建築関係の入居者が多かったですね。そのあとが東京への転勤で、オフィスから徒歩圏内の人形町のシェアハウスに入居しました。ただそこは、立地が抜群によい反面、あまり他の人との交流を好まない入居者が多いようで、自分には合わないなと。そして、今住むシェアハウスへと引越しました」
− シェアハウス の中にもいろいろあるのですね。Kさんにしっくりくるシェアハウス の条件は、人ですか?
「そうですね、人との交流を目的にシェアハウスに入居しているので、入居者の人数が多すぎず少なすぎない、ちょうどよい規模感のシェアハウスが相性よいかなと思っています。みんなと交流したいので。
逆に、立地へのこだわりはあまりありません。現にこのシェアハウスも最寄駅まで徒歩15分ほどかかりますが、“多少の不便さにもかかわらず、そこに住む人がいるくらい魅力がある” ということが指標になり、住んでみたいと思えました」
− 個人的には、シェアハウスといえど、どんなふうにコミュニケーションが始まるんだろう? と疑問に思うのですが、自然と発生するものですか?
「自然に発生しますよ。おはよう〜今日寒いね〜とか、今日は帰りが遅いんだね〜とか、家族の会話みたいなイメージです。新たに知り合った人といえど、『話題を探さなきゃ!』というプレッシャーがないんです」
− シェアハウスならではの関係性が築かれていくんですね。
こだわりの家具に囲まれて暮らす
Kさんの自室も見学させていただきました。23㎡のスペース内に、過不足のないこだわりの家具が存在感を放つそのお部屋は、まるでホテルの一室のよう。


「生活感を出さないというのがこだわりなんです。洗面台やクローゼットは、カーテンで隠しています」


「親の影響なのですが、物心ついたときからインテリアも好きでした。奥にあるタリアセンという照明と、マレンコというソファは昔から欲しかったもので、値段も張るのですが、一級建築士の資格をとったら買うと決めていて。手に入れたときは本当に嬉しかったですね」
− 子供のときからハイブランドの家具に興味をもつとは、早熟ですね……! では、これらはKさんにとってトロフィーみたいな存在なんですね。
「まさにそうですね。あと、こちらのイームズハウスバード(鳥型の置物)は、大学進学で上京する際に母からプレゼントされたものです。両親は私に建築士になってほしいと思っていたようで、建築学科に進むことをとても喜んでくれて、これを持たせてくれました」

「大学進学時は建築デザインの道を志していたのですが、いざ進学してみたら自分よりも実力をもった人がたくさんいることを知り、結果としては別の形で建築に関われる進路を選びました。デザインは趣味でやっていこうと思い、部屋には自分の趣味をめいっぱい詰め込んで楽しんでいるんです。
とは言っても、建築とインテリアは近い分野ではありながら、それなりに異なるものなんですよね。なのでこの部屋の家具の配置などは、以前別のシェアハウスで一緒だった、インテリアの仕事をしている友人に相談しながら決めました。こんなふうに細かなアドバイスをもらったんですよ」

− シェアハウスで得たつながりが、こんなふうに生きてくるんですね。
「建築やインテリア関係の友人もできましたし、書家の先生や、JAXAに就職した子など、本当に幅広い交友関係ができましたね。やはり“出会い”が、シェアハウスの何よりの醍醐味だと思います」

新型コロナウィルスの影響で気軽に外出することも難しい今日この頃ですが、Kさんは自室にいながら大好きな家具に囲まれ、共有部のリビングダイニングへ足を運べば仲間たちと何気ないコミュニケーションが取れ、とても充実した日々を送られていることがよく伝わってきました。
人とのつながりが希薄になりがちな、賃貸物件での一人暮らしにどこか馴染めないと感じている方にとって、シェアハウスという選択肢は魅力的ですね。Kさんが住むシェアハウスも、新型コロナウィルスの影響が落ち着いてきたらきっと、本を通してさまざまなイベントがおこなわれ、賑やかな集いの場になるのでしょう。そうなった頃に、ぜひまた足を運びたいと感じました。
Text by 鈴木 紀子