「俺だって穏やかな顔で好きって伝えたかった」忘れらんねえよ柴田がマンガで妄想する、憧れの上京ストーリー&大学生活

届かぬ好きだという気持ちを叫び、伝えられない大切な思いを魂で歌い上げるロックバンド「忘れらんねえよ」の柴田隆浩さん。楽曲制作や熱いライブを繰り広げる一方で、自宅に4,000〜5,000冊ものマンガを所有するほど大のマンガ好きとしても知られています。

上京後、暗黒の大学時代を送ったという柴田さんに、無数に読んだマンガの中から憧れの上京ストーリーと大学生活をお聞きします。

想像と真逆! マジで最悪な上京&大学生活

大学への進学を機に、地元の熊本から都内へ引っ越した柴田さん。上京後は同じ大学に入学した地元の友人たちとつるみつつ、サークル活動に憧れを抱く日々。そんな淡い夢と希望を抱く柴田青年に、サークルの飲み会の声がようやくかかります。

「テニサーの飲み会に誘ってもらったんです。同郷の友達・ナカジと一緒に参加したんですけど、クソ飲んじゃったし、クソ飲まされちゃって……。急性アルコール中毒で病院に運ばれました。意識を失って眠っていたとき、高校生時代にずっと好きだったおがっちという女性の名前を呼んでいたらしいです。おがっち、おがっちって」

病院のベッドで眠る柴田青年が出会ったのは、いわゆる “三途の川” ではなく、“どでかい神殿” だったそう。

「なぜか西洋風でした。パルテノン神殿のようなでかい白い神殿みたいなところにいて、その門をくぐるかくぐらないで迷っていて。門の向こうに行きたい気持ちがすごくあったけど、やっぱりやめておこうと思い留まったところで目が覚めました。付き添ってくれていたのは、ナカジのみ。サークルのみんなに逃げらたんですよ。マジで最悪な思い出です。でも誘ってくれた先輩は、かわいかったんですよね」

東京での新たな生活に期待を抱いていたという柴田さんですが、いざ上京してみると、ある種のカルチャーショックが待ち受けていました。

「高校時代から “女殺団” というバンドを組んでいたんですが、そのメンバーたちとも同じ大学だったし、ほかにも地元の仲間が数人いたんです。その同郷の仲間たちと遊んでばっかだったので、大学内にほかの友達なんてできなかったですね。行きたかった大学に受かったし、おもしろいやつにいっぱい出会えるって楽しみにしてたんですけど……。ちなみに女殺団は、死ぬほど売れませんでした」

鳥肌もんにかっこいい美しき才能

意気込んで東京へ引っ越したにも関わらず、思い描いていた大学生活は叶わず、もはや地獄のような柴田さんの上京ストーリー。それがゆえ、これまで無数に触れてきたマンガ作品の中には、憧れの大学生活や上京物語がたくさん潜んでいるに違いありません。そんな願いを込めて、「こんな青春が送りたかった!」と思うマンガのセレクトを柴田さんにお願いしたところ、選んでくれたのはなんと4作品!

まずは、演歌の星を目指して津軽から上京した、主人公・海鹿耕治の生き様を描いた『俺節』(土田世紀)からお話を伺います。

「上京してきた耕治が住み始めたのは、『みれん横丁』という山谷(現在の南千住付近)を思わせるドヤ街のアパート。同居するオキナワというギタリストや、恋人のテレサとの人間模様も胸アツですが、やっぱり耕治が演歌一筋で夢を追いかける姿には感情移入するし、憧れますね。耕治は歌以外の取り柄がないけど、その姿が美しいなって。なんでもうまくこなせるオールラウンダーより、何か1個でも突出しているものがある方がかっこいいし、こういうヤツが大好きですね」

19歳のプロボクサー・石川凛の姿を描いた『RIN』(新井英樹)もまた、ボクシングという突出した才能が与えられている点からも、柴田さんが愛する理由のひとつのよう。

「凛はもともとほかの才能ももっていたんですけど、ボクサーを目指すことでその才能がどんどん失われていきます。その姿はあまりにも壮絶で、読んでいるこっちもキツって思うくらい。強くなればなるほど人格が破綻していくし、どんどん孤独になってメンタルもボロボロになっていくという、地獄みたいなストーリーですが、そこはさすが新井英樹先生。自分の望みを通すためなら一切のことをためらわない凛は、めちゃくちゃに美しい。新宿のボクシングジムにある小さな部屋に住んでいるんですけど、なんの色気もない部屋からいくつもの奇跡を巻き起こしていく凛という人間は、鳥肌もんにかっこいいです」

ビニール袋で通学する自分にあり得ない青春劇

上京後に自分ができなかった青春の全てが詰まっていると柴田さんが言うのが、美大生たちの青春群像劇『ハチミツとクローバー』(羽海野チカ)と、独身寮に住む男女の姿を描いたラブコメ『ツルモク独身寮』(窪之内英策)。まずは『ツルモク独身寮』から事情聴取といきましょう。

「中学校時代に出会った大好きなマンガで、自分のバイブル的存在です。当時はまだまだ甘酸っぱい中学生だったので、いつか独身寮で女の子にふりまわされたりとかっていう青臭い青春が送れると、希望に満ちてました。もちろん、僕にそんな青春はやってこなかったんですけどね」

一方の『ハチミツとクローバー』は、全員片思いの美大生の恋が交差していくストーリー。柴田さんの大学生時代とはかけ離れた物語だけに(失礼!)、彼・彼女たちへの憧れもひとしおの様子です。

「おととい読み返していたら、すげぇ泣いちゃいました。とくに、ハグちゃんに叶わぬ片思いをする竹本が、自転車で北海道の最北端・宗谷岬まで行って、やっぱりハグちゃんに会いたいと思って帰ってきたときの夏祭りでのシーン。どうしても言えなかった “好き” という気持ちを、竹本が穏やかな顔でまっすぐに伝えるんですよ。ハグちゃんの答えも最高だし。2人が美しすぎてもう……」

そう情熱たっぷりにハチクロ愛を語っている最中、柴田さんはため息交じりに自身の大学生活を再び振り返ります。

「本当はこういう大学生活をしたかったですよ。熊本から東京に引っ越してきて、こんな素敵な出来事、死ぬほど起きなかったんで……。大学生のときは友達もいないし、すべてがどうでもよくなっていたから、サンダルにタオルを頭に巻いた出で立ちだったし、通学バッグはコンビニのビニール袋でした。しかもそんな姿で、大学でうん○漏らしたこともありますからね。ハチクロにはそんなシーン当たり前にないし、そもそも大学でうん○漏らすようなやつ、夏祭りに誘ってもらえませんよ」

本来送りたかった青春をマンガの世界で妄想してくれた柴田さんですが、そもそも柴田さんにとってマンガってどんな存在なのでしょうか。

「この世の中でいちばん好きなものですね。音楽を聞くより、マンガを読んでいるほうが好きなんですよ(笑)。マンガって誰かと一緒に読むってことはないし、基本的には1人で楽しむもの。僕はごはん食べるときや、お風呂に入るときにも必ず持っていきますよ。いうならば、孤独に寄り添ってくれる親友であり、パートナーでもあるんですよね」

自分のためではなく、お客さんに喜んでもらうために

マンガ愛をノンストップで語ってくれた柴田さんは、11月2日(月)に新曲『歌詞書けなすぎて、朝』を配信限定でリリース。連続ドラマ『ヴィレヴァン!2~七人のお侍編~』(メ~テレ)のために書き下ろしたそうですが、直球すぎるタイトルが気になりすぎます。

「メロディとアレンジはできたんですけど、歌詞がなかなか書けなかったんですよ。そんなとき、撮影現場にお邪魔する機会をいただいたんです。ドラマの現場なんて初めてでしたが、台本に沿ってかっちり進んでいくと思いきや、その場で役者さんと演出家さんが議論しながら作り上げているのを目の当たりにしたんです。それがすごいライブ感があって、とてもいい刺激になりました。だからその経験を生かして歌詞を書いたんです。完全なるドキュメンタリーですね」

歌詞が書けないと素直に吐露するAメロから始まり、君を好きだという思いを吐き出す歌へと変わっていくこの楽曲。これまでと同じように、今回も柴田さんが綴るのはやはり恋の歌でした。

「やっぱり思ったことしか書けないんですよ。嘘のない言葉でしか歌詞を綴れない。今までもこれからも、そういうやり方しか自分にはできないと思います」

嘘がなくて実直。そんな柴田さんの人柄が楽曲にもにじみ出ているから、たくさんの人を惹きつけているのかもしれません。さらに12月18日(金)には、中野サンプラザでの初ワンマン『僕の大切なもの』が控えています。

「今までのライブを振り返ると、自分のためにやっていたような気がします。だけど今回は、こういう時期に足を運んでくれるというのもあるので、お客さんのためにやろうと思ってます。ガチでみんなを喜ばせたいんです。そのためには、シンプルにいい演奏して楽しいMCをする。特別なパフォーマンスはいらないかなと思ってます」

Text by 船橋 麻貴 Photo by 今井 淳史