新型コロナウイルスの影響で2月頃からリモートワーク(テレワーク)を導入する企業が増加。未曾有の事態という予期せぬ形で新しい働き方が世間に浸透しました。
しかし、リモートワークを6年前から実践している企業も。秘書・人事・経理・WEBサイト運用などのオンラインアシスタントサービス『CASTER BIZ』をはじめとした人材事業を運営する株式会社キャスター(以下、キャスター)です。「リモートワークを当たり前にする」というミッションを掲げる同社は、従業員ほぼ全員がリモートワークをしています。
本稿ではキャスターで働く方たちの仕事部屋を公開。さらに、キャスター・COO(最高執行責任者)の石倉 秀明(いしくら ひであき)さんからリモートワークに対する考え方、向き合い方についてお話を伺いました。
石倉 秀明(いしくら ひであき)●株式会社キャスター取締役COO。『bosyu』事業責任者。2005年に株式会社リクルートHRマーケティング入社。2009年に創業期の株式会社リブセンスに入社、求人サイト『ジョブセンス(現:マッハバイト)』の事業責任者として市場最年少上場に貢献。その後、株式会社DeNAにて、EC事業本部の営業責任者ののち、新規事業、採用責任者を歴任。2016年より現職
700名以上、ほぼ全員がリモートワーク
2014年の創業時からリモートワークを取り入れているキャスター。全国46都道府県、日本を含む16ヵ国にいる700名以上のメンバー(直接雇用、業務委託を合わせて)のほとんど全員がリモートワークをしています。

関東圏在住のメンバーは全体の約1/3。そのうち大半のメンバーは自宅で仕事をしています。また、仕事部屋を持つ人は全体の約40%。普段生活をするスペースに仕事のできる環境を設けている人が多いようです。

自宅でのお仕事スペースは人それぞれ。デスクとチェアを用意する人、冬場はコタツで作業をする人、ダイニングテーブルやスタンディングデスク、バランスボールなどのアイテムを設置する人など、自分好みに環境をカスタマイズしています。
「オフィスだとデスクやチェアなど会社が用意したものを使用するため、作業環境が均一です。一方、リモートワークだと自分の最高の環境に整えることができます。
キャスターでは、家にネットが通っていること、子どもを保育園に預けていることなど、最低限の就業ルール以外は自由です。そのため、自分の好きな環境で仕事をしています。人によって環境の重要性が異なるので、すごく整えている人もいれば、全く気にしない人もいますね」
− 石倉さんはどのような作業環境でお仕事をされているのでしょうか?
「僕は環境を全く気にしていないので、つい最近までは自宅のダイニングテーブルで作業していました。コロナ禍で家にいる時間が増えるだろうと思い、最近デスクとチェアを買いましたけど……子どもの遊んでいる部屋の横に置いている感じです。
環境が整わないとリモートワークが始められないと言う人は神経質になり過ぎかもしれません。パフォーマンスを出すことと作業環境に因果関係はないと思っています」

− オフィスワークのご経験もあると思うのですが、オフィスワークとリモートワークに違いを感じたことは?
「環境の変化がパフォーマンスに影響したと感じることはないです。前職ではオフィスのデスクでノートPCを開いて仕事をしていましたけど、リモートワークを始めてからはそれが自宅のダイニングに切り替わっただけという感覚でした。
ネット環境も大容量のデータのやり取りをする以外、クラウドツールを使用して自宅の回線で問題なく作業ができます。オフィスによっては多くの社員が同時にネットに繋いでいるから、回線が重い場合もあるじゃないですか。オフィスワークとリモートワークのハード面の差ってそんなにないと思うんです。あるとすればソフト面の工夫が必要だと思います」
− ソフト面……?
「チャット上でのやり取りが中心になるため、雑談の会話をいかに増やしていくか。リモートワークをする上で新しいコミュニケーションの工夫をする必要はありますよね」
リモートワークには「雑談」が必須

− 書籍『コミュ力なんていらない』でも、雑談の大切さについて言及されていましたね。
「オフィスの中で行なわれる会話には3種類あると思っています。1つ目は、当たり前ですが “業務内容の連絡”。2つ目に “カジュアルな相談”。壁打ちやブレストですね。そして、3つ目に “雑談”。仕事とは関係のないプライベートな話があります。
リモートワークでチャットコミュニケーションになると起こりがちなのは、2つ目と3つ目の会話が抜け落ちてしまうことです。業務上の簡素なやり取りだけになる。圧倒的にコミュニケーション量が減ってしまいます。そうすると、相手が何を考えていて、どういう状況なのか分からなくなり、仕事に影響が出てくる場合もあります。
リモートワークのコンサルティングのお仕事をしていて、過去に約20社の導入のお手伝いをしてきました。コンサルをする際には、お手伝いする会社のチャットに入らせていただくのですが、全社に共通しているのは “コミュニケーション量の少なさ” です。弊社の1/10以下のコミュニケーション量しかありません」
− キャスターではチャット上でどれくらい会話をされているのでしょうか?
「部署によりますが、僕が見ている事業本部の約50人のメンバーが入っているスレッドは、1カ月のメッセージ数は約37,000通。1日1,200通くらいの会話がされています。ただ、これはオフィスで行なわれている会話をそのままチャット上に移したら同じだと思うんです。
例えば、オフィスにいれば同じ島の人と『昨日さ~』みたいな話をしますよね。チャット上でも同じように会話すればよいだけ。弊社はチャット上で『お腹空いた』『猫かわいい』といった雑談が発生しています(笑)。チャットツールをただの連絡手段だと思いがちですが、チャットツールは架空のデジタルオフィスなんですよ」
− テキストコミュニケーションだと、相手の感情が見えづらいこともあります。そういった課題はどのように解決していけばよいと考えますか。
「それはテキストのせいではなく、関係性の問題ではないでしょうか。例えば、ご家族やパートナー、お友達とLINEで会話するとき、テキストを見て何となく相手の感情が分かりませんか? テキストで相手の感情が見えてこないのは、今までコミュニケーションを取っていない、関係性が構築できていない証拠。会社の人同士でもコミュニケーションをたくさん重ねて、相手のことを理解すればテキストで通じ合えるはずです。
『リモートワークになったら、こうなるのではないか』といった議論が度々出てきますが、それはオフィスにいたときにできていたんですか? と聞くと、大体できていないんですよね。もとからできていないことが表面化されただけ。“リモートワークだから” と特別視し過ぎな気がします」
働く場所で実力やスキルは変わらない

− 9月26日に出版された書籍『会社には行かない』に書かれていた内容や本日お話されていた内容から「リモートワークは特別な働き方ではない」と理解できました。
「とはいえ、リモートワークに対する社会的な認知と実情にとてもギャップがあると思っています。社会的には『子育てしている方でも働けていいね』『地方の方が活躍できていいね』と、“オフィスで働くのが普通“で“オフィスに働きに行けない人たちの救済措置がリモートワーク”といった認識がいまだにあります。福利厚生の一環のような。
自治体によっては、リモートワークやテレワークだと点数が下がって保育園に入りにくい場所もあります。実際はリモートワークでもしっかり仕事をしていたら普通に忙しいですし、子どもの面倒を見ながら仕事をするのは当然難しいです。コロナ禍でリモートワークが増えた現在も、実態とイメージのギャップを感じます」
− ちゃんと仕事に向き合っていれば、オフィスでも自宅でも働く時間や業務量は変わらないですもんね。
「リモートワークになって生産性が下がったという話を耳にしますが、どこにいようがその人のもつ実力やスキルは変わりません。一度に処理できる仕事量もおそらく同じです。余計なことは考えず、どんな場所にいても仕事に集中すればよいだけ。
万が一オフィスと自宅で生産性が下がるとしたら、それは個人の問題ではなくチームに問題があると思います。先ほどお話したコミュニケーション量の低下はまさに個人の問題ではなく、チームの問題です。どこにいても同じ情報が取れて、同じ仕事ができるように会社やチームで意識すればいい。それができるようになれば、オフィスで行なわれていた無駄な会議などが省かれるため、逆に生産性が上がるかもしれません」
【出版概要】
『コミュ力なんていらない 人間関係がラクになる空気を読まない仕事術』
著者:石倉秀明
出版社:マガジンハウス
ページ数:192頁
発売:2020.08.27
『会社には行かない 6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』
著者:石倉秀明
出版社:CCCメディアハウス
ページ数:200頁
発売:2020.09.26
Text by 阿部 裕華
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