三崎へ移住して3年。編集者・ミネシンゴが手放した、「お金と時間をなんとなく消費する“東京的生活”」とは

コロナウイルス感染症対策のため、リモートワークが一般的となった今、郊外暮らしに注目が集まっています。家賃が抑えられて広い家に住めるのは憧れるけど、都心を離れて暮らすことに対しさまざまな懸念が頭をよぎるのも事実。そこで本企画では、実際に郊外に移り住んだ人たちに移住の実際をお聞きします。

今回は、神奈川県の三浦半島にある三崎で出版社を営む編集者・ミネシンゴさんが登場。海も近くて豊かな自然が広がる三崎に移り住んで3年。東京の仕事を請け負いながらも、ここを生活拠点にすることで見えてきた郊外暮らしの魅力を伺います。

10年以上も前から始まっていた “脱東京” 宣言

横浜出身のミネさんは、美容師から編集者に転身したのち、再び美容師として活躍し、今度はリクルートでの企画営業を経て出版社をみずから立ち上げる、というユニークな経歴の持ち主。住まいとなる地域も、東京、逗子、三崎と、ライフシーンごとに変わってきました。脱東京のはじまりは、再び美容師として働き出したときの拠点・逗子で、当時ミネさんは25歳。その後、現在の住まい三崎に移り住むまでの8年間を逗子で過ごしたと言います。

「東京の出版社を退職してまた美容師として働こうと思ったとき、好きな街で暮らしたいと思ったんです。はじめは、実家からも近いし文化や歴史もあるからと鎌倉に魅力を感じていたのですが、いざ物件を探してみたら思いのほか高くて…。当時、美容師の手取りが13〜14万に対して、ワンルームが7万円というのが相場でした。これでは暮らしていけないので、隣町の逗子で探してみたら、60平米で6万円のいい物件が見つかって。結局そこには、妻と結婚するまでの2年くらい住みました。その後、リクルートに転職して都内勤務になってからも、同市内で一軒家に転居して逗子に住み続けましたね」

逗子から東京までは電車で1時間ほど。多忙な日々に加えて、通勤ラッシュが待ち受ける日々の中でも、都内に引っ越さなかったのはなぜ?

「漠然と東京はもういいかなって思っていたんですよね。逗子に住み始めた頃から “脱東京” ってずっと友達に言っていたんです。『これからは東京じゃなくて、他の地域だ』みたいなことをUstreamで配信しまくっていて(笑)。まぁほとんで聴いてもらえてなかったんですけど。まだ震災前でしたけど、元々ローカルに興味があったし、当時は鎌倉のフリーペーパーを作ったり、ラジオやったりイベントもしょっちゅうやっていました。そういう活動をしていた矢先、東日本大震災が起こって、「ローカル」や「地方創生」という言葉に注目が集まり、やっと時代が追いついて来たなとちょっと思いましたね(笑)」

三崎に一目惚れし、引越しを即断

リクルート退社後、逗子の自宅を事務所として活用し、30歳の節目に奥様と一緒に夫婦出版社「アタシ社」を創設。出版物の在庫や所有していた蔵書を抱え、手狭になっていたことから引っ越しを検討することに。

「当時逗子で暮らしていたのは、駐車場なしの一軒家。駅近で家賃12万円でしたが、独立してからは以前ほど東京に行く機会も減ったし、家賃を抑えるためにもっと都心から離れてもいいかなと。それにメディアに取り上げられる機会も増えて、大人たちがわさわさと逗子に移住してきたのも大きかったかも。もう少し田舎のほうで働いて、いくつか拠点をもちながら暮らすのもいいかなと」

そう考えたミネさんは、クライアントや友人たちがいる都心から半径70km圏内、移動に1時間半くらいの距離の土地で新居を探すことに。希望圏内である二宮や千葉の房総半島から、もっと離れた諏訪や真鶴まで見て回ったそう。

「いろいろなエリアを見たんですけど、たいして家賃が安くならないんです。下がっても4〜5万程度。そんなとき、トークイベントで一緒になった方に相談したところ、おすすめされたのが三崎でした。全くノーマークでしたが、翌週三崎にドライブに連れていってもらって出会ったのが、築100年近くの元船具店でした。味のある物件の雰囲気も、三崎の商店街のど真ん中にある立地も即座に気に入りました。それに目の前は新刊書店だったこともあって、出版社を営む僕らにぴったりだなって。ここを事務所や蔵書室として使い、それとは別に住居を借りても逗子の12万の一軒家よりコストが抑えられる。すぐに移住を決めちゃいました」

ミネさんの住居はこの物件から歩いておよそ15分。4Kの平家、駐車場3台付きで水周りが新品だったりと室内がリノベーションされていたこともあってこちらも即決。こうして三崎での暮らしがスタートします。

“東京的生活” を三崎に求めない

会社の事務所も住まいも即決したミネさん。三崎に移り住んでちょうど3年が経ちますが、実際の暮らしはどうなのでしょうか。

「三崎は駅からのアクセスがよいとは決して言えないのですが、海も近くにあるし、自然も豊か。三浦半島の中でも圧倒的に田舎なんです。とくに平日は観光客もまばらだから、ドライブするだけでも気持ちいいですね。それでいて商店街あたりは、土日になると外からの人の流れがあるので、街自体にオンとオフがあるのがおもしろいですね。あとは、アーティストや作家、デザイナーなど自由業の大人たちも多く、何かおもしろい企画ができそうなので、そこが僕にとっては魅力的です」

一方のデメリットを聞けば、悩みながらもこう答えてくれます。

「う〜ん、デメリットというデメリットが思いつかないんですよ。でもいい点ばかりじゃ記事にならないですもんね(笑)。しいて言うなら、とある光回線がエリア外ということと、神奈川県といえども車社会ってことくらいですかね。車がないと、お出かけや買い物に行くのにちょっと不便ですね」

東京にクライアントや友人たちが多いというミネさんですが、その付かず離れずの距離感がちょうどよいとも。

「都心まで車で1時間、電車でも1時間半程度。元々、東京の仕事を請け負えるギリギリのラインを探していたし、今はオンラインで打ち合わせだってできます。友人と都内で飲むときだって、早く家を出ればいいだけの話。だから移動時間や距離は全然苦ではないですね。もちろん、東京で暮らしていたときのようにふらっと飲みにはいけません。でも、そういう“東京的生活”は、三崎に来た時点でもう手放しているんですよね。お金も時間もなんとなく浪費するのは、もういいかなとも思っているので」

生活様式が急激に変わり、郊外での暮らしを考える人が増えつつある昨今。そんな人へのアドバイスをお聞きしたいところ。

「現実的なことを言うと、給料や月収から使える金額をしっかり把握し、その中で使える金額を精緻に出すことが大事かもしれません。移住先の生活コストと照らし合わせ、どのくらいの金額が貯金や遊興費に回せるというように実際の数字で出した方が、そこでの暮らしの実情を把握できるし、納得感を持てると思います。

あと、住む先に尊敬できるおもしろい人がいるかどうかも移住する上で重要な要素のひとつになりますが、一番大切なのは好きなお店があるかどうか。カフェや書店、映画館、美容室など、なんでもいいんです。街の景観や文化を作るのは、お店や施設などのハード面からが大きいと思うんです。そこに人が集まり、カルチャーが生まれる。あらゆるものがそういう場所から生み出されると思っているので、自分がピンと来る店があるかどうかは、移り住む決め手になり得ると思います」

Text and Photo by 船橋 麻貴

 

 

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