「拠点を縛らないことは、柔軟に動ける証拠」アパレルブランドBLIXZYのプロデューサー・武藤千春が二拠点生活する理由

引越しには、ドラマがある。あの日、あのとき、どんな想いで新生活をスタートしたのか、そして当時の経験が今にどうつながっているのかを伺うインタビューです。

今回お話を伺ったのは、ファッションブランド『BLIXZY(ブライジー)』のトータルプロデュースやラジオパーソナリティなど、多岐にわたり活動している武藤千春さん。2019年12月から東京と長野で二拠点生活をしています。仕事も生活も柔軟に楽しむ姿勢が印象的な武藤さんから、二拠点生活ストーリーを伺いました。

二拠点生活は“いつか”ではなく“今”できること

2019年12月から長野と東京で二拠点生活を始めた武藤さん。現在はコロナ禍に伴い、長野をメインの拠点に仕事と生活を両立しています。

「2019年12月に二拠点生活を始め、3月までは週の半分を長野、半分を東京で生活していました。しかし、4月に緊急事態宣言が出て、自然と都心から離れる時間が増え、現在は多いときで週5~6日ほど長野にいます」

− アパレル業界に多大な影響を与えた新型コロナウイルス。武藤さんはファッションブランドのプロデュースをされていますが、コロナ禍においてお仕事に変化はありましたか?

「もともと原宿やSHIBUYA 109に店舗を構えていましたが、2018年の終わり頃にブランドのあり方を見直し、2019年始めに店舗をクローズしました。ECサイトでの販売をメインにしており、そこまでダメージはありませんでした。

また、長野に拠点を増やすタイミングで自分の自由な時間を増やしたいと、なるべくリモートで仕事をしていました。当初は一緒に仕事をしている多くの方がリモートに慣れていなかったため、『え、リモート?』と言われることも多く、リモートで仕事をしたいと言い出しづらかったのですが……ちょうどコロナ禍でリモートが主流になったので、ストレスなくリモートワークができています。とてもタイミングがよかったです」

− 現在、東京のお住まいにはほとんど行かれていないんですね。

「東京にはワンルームの事務所兼居住スペースはありますが、東京に来たときはAirbnbを使って打ち合わせや予定がある場所近くのホテルやAirbnbに泊まるようにしています。東京出身でこれまで東京に泊まるという感覚がなかったので、この機会にそういった楽しみ方もいいかなと。柔軟に生活しています」

東京の街並み

− なぜ、生まれ育った東京から少し離れた長野に拠点を置こうと思ったのか教えてください。

「ひいおばあちゃんがもともと長野県出身でしたが、私も家族も長野に住んだことはなくて。ただ、おばあちゃんがずっと長野に住みたいと言っていて、2018年くらいからおばあちゃんの家探しを手伝っていたんです。

部屋探しや内見に付き添って長野に行くうちに、『新幹線で行けばこんなにすぐなんだ! 東京とこんなに近いなら住めるな』とイメージが湧いてきました。最初はおばあちゃん一人の居住を探していましたが、家族みんなが住めたり親戚が集まれたりする場所を探そう、ついでに私も住んじゃおうと(笑)」

− もともと移住や二拠点生活に興味があったんですか?

「いつか移住したいな、島や森の中、山が見える場所に暮らしたいなと思っていました。ずっと東京で暮らしていて、家の近くにコンビニはあるけど公園はなく、友だちと遊ぶ場所は商業施設の中、そんな生活を過ごしていました。夏休みになると田舎のおじいちゃんの家に行く友だちや同級生がずっと羨ましかったんです。

2018年に『BLIXZY』のあり方を考えたタイミングで、自分のライフスタイルやワークスタイルも一緒に考えたのですが、そこで“いつか移住したい”が果たしていつなんだろう、いつかじゃなくて今でもできるのではないかと。おばあちゃんの付き添いのとき、新幹線で1時間あれば東京に行けると知り、千葉や埼玉から1時間かけて都内に出勤する人もいると考えると、長野から都内へ通うのも問題ないだろう。とはいえ、東京でやりたいお仕事があるし、いきなり長野に丸々移住してしまうのも不安だったため、まずは半々でと二拠点生活を決めました」

− 現在はおばあさまとふたりで長野に住んでいらっしゃる?

「祖母が母屋、私が離れに住む、といった感じです。たまにおばあちゃんに会いに母屋へ顔を出したり、車で一緒に出かけたりしつつ、基本的にはお互い自由に過ごしています」

− 母屋と離れがあるんですね。

「みんなが集まれるようにと一軒家を選んだのですが、もともと離れはなく。お庭の一部に離れを建てました(笑)。自分で間取りを決めたり、床や壁紙を選んだり。1階は仕事の事務所にしていて、2階は仕切りをつけて寝室と書斎のスペースにしています」

離れの作業部屋

− すてき……! 長野のお部屋を探すとき・離れを建てるときにこだわったポイントはありますか?

「東京に住んでいるときは車に乗る機会がなく、長野へ行くまで私もおばあちゃんも車の免許を持っていなくて……なるべく歩いて20~30分圏内に駅やスーパーへ行ける場所。それと、田舎に住むからには浅間山や八ヶ岳が見えるロケーションを選びました。

離れを建てるときは、仕事ができるようにコンセントをいっぱいつけました(笑)。あと、犬を2匹飼っているので、母屋と離れを結ぶ連絡通路をつくって犬が走れるようにしています」

離れの書斎

長野での生活が心身を豊かに

− 8月に「二拠点生活をして変わったこと。」をnoteに書かれていましたが、二拠点生活を始めて特に変化したことは?

「移動時間の感覚が本当に変わりました。東京と長野間で景色がとても変化するため、30分や1時間の移動時間が楽しめます。遠いな、移動が嫌だなと感じることは全くないです。

また、生活に目を向けられるようになりました。これまで一日の中心にあるのは仕事でした。でも、長野に来てからは仕事以外の時間を大切に使えるようになって。本当に些細ですけど、お風呂上りに丁寧に髪の毛を乾かしてオイルをつけるようになったり、化粧水を時間をかけてつけたり(笑)。睡眠時間は増えて、食生活も変わりました」

− 食生活はどのように変わったんですか?

「東京に住んでいたときは偏った食生活をしていました。外食が多かったり、Uber Eatsで頼んだり(笑)。おなかを満たすために、これでいっか……というような食生活。

でも、長野にきてからは考えて食べるようになりました。周りにお野菜の直売所がいっぱいあって美味しいお野菜が買えますし、地元で何百年も続く味噌屋さんの味噌や長野のブランド米も買えますし。最初は旅行感覚でいろいろなお店を回っていましたが、自然とお肉を食べなくなり今では菜食メインになりました。とても健康になったと思います」

趣を感じる長野の自然

− 体が健康になると、心も健康になりそうですね。

「心の余裕が生まれました。以前は仕事がメイン、プラスアルファは他人との時間、外に出る時間でした。東京では山手線沿い駅から徒歩30秒の場所に住んでいたため、誰かに呼ばれればすぐに行くとか、少し歩いたり電車に乗ったりすれば気軽にいろんな場所へ行けるから、ここに行くついでにここにも行こうとか。自然と予定が詰まっていく。

でも、長野にいるとプラスアルファは自分だけの時間になるんですよ。呼び出されてもすぐに行ける距離ではなくなりました。物理的に時間が増えたので、本を読んだり犬と遊んだり、それこそ野菜の直売所に行ったり。時間の使い方が変わったのも大きな変化ですね」

「やりたいことができる自分と環境でありたい」

− 長野でも問題なく仕事ができ、それどころか心身ともに健康になった。いいこと尽くしだと感じますが、長野への完全移住は考えていないのでしょうか?

「たくさんの拠点をもつことが理想ですね。例えば、長野と違う自然のある街、それこそ長野は海がないから海のあるところに住むのもいいなとか。

子どもの頃から東京の中で引越しをたくさんしてきたので、拠点を増やすのはそんなに難しくないと思っています。移住や自然の暮らしに憧れていたから今はとりあえず長野だけど、完全に東京へ戻るかもしれないし、全く別の場所に行くかもしれません」

− 二拠点どころか多拠点生活が理想なんですね。

「以前ラジオのお仕事でご一緒した方がアドレスホッピングをしていたり、友だちが多拠点生活をしていたり、身近な人たちが柔軟に生活をしているから、私も自然とそういう生活に目が向いています。

これまでは仕事の目標ばかりを追っていましたが、今は “やりたいことをやりたいときにできる自分と環境でありたい” という人生の目標を追いたくて。そうすると場所に縛られるのは正解ではないと思うんです。拠点を縛らないことは、柔軟に動ける証拠。場所にこだわらないからこそ、やりたいことがあったときにすぐに動けます。暮らしも仕事も縛られずに生きていきたいですね」

ーー コロナの影響でリモートワークをする人が増え、二拠点・多拠点生活を考えている人も多くなっています。一足先に二拠点生活を実践されている武藤さんから、そんな方たちに向けてアドバイスをお願いします。

「せっかく二拠点や多拠点での生活をするのなら、暮らし・日常を楽しめたほうがよい。なので、自分の住みたい場所に拠点を置くのもいいけど、複数の拠点を行き来する生活を考えたとき、移動する “過程” すらも楽しめたらよいですね。

移動時間が長いと感じないちょうどいい時間の拠点を探す。1時間が長いと感じるなら、40分の場所を探すとか。飛行機よりも新幹線の方が楽しめるとか。そういう少しの工夫が複数の拠点での生活をより充実させてくれるはずです」

▼武藤千春さんのSNS
Instagram https://www.instagram.com/iamchiharumuto/

Twitter https://twitter.com/iamchiharumuto

note https://note.com/chiharumuto

▼ファッションブランド『BLIXZY』
BLIXZY ONLINE STORE https://blixzy.tokyo/

Text by 阿部裕華