コスプレイヤー御用達の街! 衣装だけでなく武器も再現する葵きつねと、日暮里繊維街を歩く

日暮里駅東口を出て日暮里中央通りのほうへ進むと、約1キロにわたって生地織物の店が立ち並ぶ「日暮里繊維街」にたどり着きます。ここにはおよそ90店舗が集まり、さまざまな素材の生地はもちろん、小物や付属品などファッションや手芸に関するあらゆるものが手に入ります。

そんな日暮里は、さまざまな衣装を自ら製作するコスプレイヤーが足繁く通う街でもあります。今回は、コスプレイヤーの葵きつねさんと日暮里繊維街を歩き、どのように衣装を自作しているのか、コスプレの魅力とは何か、葵さんにとって日暮里とはどんな街なのか、などお話を伺います。

布の街、布の道 日暮里繊維街へ

日暮里繊維街は元々問屋街。日暮里繊維街公式マップを見るとわかるように、見事に軒並み服飾専門店が立ち並びます。大正から昭和終わり頃までは、専門業者に卸売りをするお店が建ち並んでいましたが、時代の変化とともに一般の方々にも小売り対応するようになり、今では学生からプロのデザイナー、アパレルメーカーまで幅広い服飾関係者が材料を探しに訪れています。

日暮里繊維街公式まっぷ

いつも日暮里で布類の買い出しをしているという葵さん。まずは日暮里に行ったら必ず訪れるという『トマト本館&ノーション館』へ向かいました。

「ここはなんと言っても、布が安いです。コスプレではたくさんの布を使うことが多いので、普通の生地屋さんとはかなり会計が変わってきます」

− さすが問屋街。お買い得なんですね。

「安さだけでなく、布の種類もすごく豊富です。普通の生地屋さんでは、柄物のコットン生地は豊富ですが、素材のバリエーションはそんなに多くないんですよね。コスプレ衣装はいろんな素材を使うので、特殊な素材まで取り揃えているトマトが大活躍するんです」

− なるほど……。葵さんがこちらのコスプレで身につけている衣装は胸元に装飾がありますが、こういったものはどこで手に入れるのですか?

FF14水晶公のコスプレをする葵さん

「こちらは『フリカケ(furikake)』というお店で購入したアクリルストーンを加工したものです! フリカケさんはパーツ品の専門店で、ラインストーンやアクリルパーツ、ブレード、レース、チェーン、羽根、ケミカルモチーフ、フリンジなどとにかく幅広く取り扱っています。コスプレ衣装にはこうした装飾が必要なことも多いので、日暮里に来たときは必ずフリカケさんにも立ち寄っていますね」

フリカケ(furikake)の店内

− 見渡すかぎりかわいいアイテム! わたしには用途が思いつかないけれど買いたくなってしまいます。

「フリカケさんはSNSにも力を入れていて写真を見ているだけでも楽しいので、ぜひ見てみてください!」

 

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− 日暮里繊維街では布以外のものも調達できるんですね。

「いろいろなお店があるので、作りたい物に合わせて訪問しています。たとえば、掘り出し物を探したいときは『NAGATO(ニット館)』や『ZAK ZAK』に、改造を前提としてベースにできそうな服を探したいときは『ヘイワ堂(本店)』と『レモン日暮里店』に行くとか。衣装によっては『フジカケ駅前本店』、『革のAnd Leather日暮里中央店』、『奥山1~2号館』、『ETSUKO TRIMMING』も利用しますね。『コスモードクロシック』は通販でよく利用します」

− 行きつけがたくさん! 衣装を作るとなったら、これとこれはあのお店で買おう、というふうに頭にぱっと思いつくのですか?

「だいたいは思いつきます。これは次に作る衣装の設計図なのですが、まずはこのように、簡単に設計図のようなものを作って、必要な材料を書き出しています。これに沿ってあのお店に行こう、と考えるんです」

これから作る衣装についてのメモ

− コスプレ衣装は複雑そうなのに、これくらいのメモで買い物ができるのがすごいです。

「でもいつも何かしらは買い忘れてしまうんですよね……(笑)」

時とともに成長する、人と街

シノアリスのコスプレをする葵さん

− ところで、葵さんがどんなきっかけでコスプレを始めたのでしょうか?

「高校生のときにディズニーで仮装のハロウィンイベントが始まり、参加したいと思ったのがきっかけです。初めて作ったコスプレ衣装は、ムーランの着物のようなコスチュームでした。着物は裁断もま四角ですし、縫製も直進縫いばかりなので初心者向きなんです。もちろん初めてだったので今思えば未熟な出来栄えでしたが、そこから衣装を作る楽しさにハマっていきました。そのときもやっぱり、日暮里で材料をそろえたんです」

− 初心者向きといえど、やはりいきなり衣装を作るというのはハードルが高いように思うのですが……。

「わたしの家族は、ものづくりが好きな人が多いんです。たとえば祖母は編み物がすごく好きで、コートのような大作を作るほどですし、父も手芸が大好きで、趣味の釣りに使うバッグや擬似餌を自分で作ったり、日曜大工をしたりしていました。そんな環境で育ったので、作ってみることに対するハードルは低かったです。わたし自身、小学校では手芸クラブに入っていたんですよ」

− 現在は衣装だけでなく、コスプレ造形(武器など)も作っているのですよね?

「造形を作り始めたのは、比較的最近です。FF14のコスプレをするにあたって、どうしても武器も含めて再現したいと思いまして。初めて作ったのは、FF14に登場する『アルテミスボウ』という弓です。これは戦闘時には弓の形をしているのですが、非戦闘時には折り畳まれるという設定で、それをどう再現するかかなり頭を悩ませました。工作系が得意な父に相談して、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら、ようやく出来上がったものです」

FF14のコスプレをする葵さん

− お父様が手伝ってくださったのですか! 身近なところに、頼れる人がいてすてきですね。

「ちなみに着ている衣装は、襟元などいくつかのパーツがLEDで光るようにできているのですが、これも父にたくさん相談して実現しました。コスプレはやればやるほど、ゲーム内の設定をもっと忠実に反映させたいという気持ちが湧いてくるので、結果的にどんどん高度なことに挑戦することになってしまいます(笑)」

− 直線縫いからスタートしたコスチューム作りが、いまや服を光らせる次元に到達しているのですね。ところで、実はわたしも中高生のときは演劇部の中の衣装部に所属していて、日暮里にはたびたび布を買いに訪れていました。当時から15年近く経っていますが、街の雰囲気が変わったような気がして。気のせいでしょうか?

「日暮里繊維街は、実際にどんどん変わってきていると思います! 以前は “古きよき問屋街” という感じだったのですが、いろんなお店が改装されていったり、行政によって道が広くなったり、新しいマンションもどんどん建ったりと、明るくフレッシュな雰囲気になってきました」

− 「一部の専門職の人が利用する街」から、「広く開かれた繊維街」へと変化してきているんですね。

「今は新型コロナウィルスの影響でそこまで人が多くないですが、本来この時期には文化祭の準備をしている生徒さんや、卒制を控えた服飾系の学生さんがたくさん来てすごく賑わっているんですよ。近年は、外国人観光客も多くなっていました。わたしもコロナショックの前は月に1度くらいの頻度で日暮里に来ていたのですが、今日は少し久しぶりです。

また賑わっている日暮里が見たいですし、大人数のコスプレイベントも再開したいし、早く新型コロナウィルスの脅威が落ち着いてほしいなあと願っています」

Text by 鈴木 紀子 Photo by 今井 淳史