引越しには、ドラマがある。あの日、あのとき、どんな想いで新生活をスタートしたのか、そして当時の経験が今にどうつながっているのかを伺うインタビューです。
今回お話を伺ったのは、書道と絵が融合した独自のアート作品で注目されている原愛梨さんです。書道アーティストとして活動の幅を広げたいと、福岡県から上京してきた原さんの孤軍奮闘となった上京ストーリーを伺いました。
1993年10月2日生まれ。2歳から書道を始め、最年少で文部科学大臣賞を受賞。多様な観点での文字を使った書道アートでスポーツの作品をメインにTwitterに投稿したところ、各界のスポーツ選手から大きな反響を呼んだ。 親しみやすい性格と、天真爛漫なキャラクターを武器に、メディアやイベント、ジャンルを問わず幅広い分野で活躍する今注目の若手書道アーティスト。自身初となる作品集「書道アーティスト 原 愛梨 愛」(KADOKAWA刊)が発売中。
親の反対を押し切っての上京

− 上京する前は地元・福岡で活動されていたと伺いました。上京を決めた、一番のきっかけは何だったのでしょうか?
「“書道アート” を広めるには、福岡より東京のほうがチャンスが多いというか、広めやすい環境なのかなと思ったのが一番のきっかけです。あとは、背水の陣……じゃないですけど、自分を追い込んでみたいなと思って(笑)」
− 自分を追い込む! ものすごい覚悟の上京だったんですね。
「そうなんです(笑)。実は、福岡で一度、書道の道を諦めて就職してたんです。でも、やっぱり『書道をやりたい!』とずっと思っていて。書道が好きで、そのよさをもっと知ってもらう活動がしたい。そう思って思い切って仕事を辞めました。何ができるかなと思っていたときに、書と絵を組み合わせた書道アートを書くようになって、これならもっと書に興味をもってもらって、広めることができるかもしれない。そう思って始めたのがきっかけです。
最初はそれこそ、書類を送っても返事すら来ない状況で。そんななか、今の事務所にご縁があって、もっと書道を広めるためにはチャンスが多い東京に行くべきだと、上京を決めました」
− そんな書道アートをもっての上京。期待と不安、どちらが大きかったですか?
「やっぱり不安のほうが大きかったですね。友だちもいないし、親の反対を押し切って、自分で決めて出てきたので。もう、めちゃくちゃ反対されたんですよ。だから、出てきた以上絶対に戻れないし、来ちゃったからやるしかない! という心境でした」
− 反対されたとなるとまさに背水の陣でしたね。
「どうすることもできない状況を自分で作ってしまいましたから。でも、書道のために上京したからには、絶対にバイトはせずに書道だけで生活していくと決意していたので、とにかく書いて、書いて書きまくっていました(笑)」
− 今振り返って、上京したタイミングなどの決断は正しかったと思いますか?
「反対を押し切って出てきたところは、今でも、母にちょっと申し訳ないなという気持ちがあります。でも、今は仲直りというか応援してくれていて、その声で頑張れているところがあるので、結果オーライかなと(笑)。さらに頑張れる環境を作れたんじゃないかなと思っています」
“書道を一番に考えた” お部屋探し

− 上京するときのお部屋探しでこだわった部分はありますか?
「書道をすると決めたからには、何よりも書道を一番に考えた環境のお部屋に住みたい!というのがあったので、キッチンの使い勝手とか、バス・トイレ別とか、そういう部分はまったく気にしないで、とにかく書ける広いスペースがあるところにこだわりました。
私は床で書くことも多いので、部屋には極力何も置かないようにしています。現在もお部屋にはベッドも置いていなくて、毎回布団を畳んで直して(片付けて)います。テーブルも小さいのが一つだけで、絨毯(じゅうたん)もできれば敷きたくないので、比較的質素なお部屋だと思います(笑)」
− まさに書道のためのお部屋ですね。
「書くスペース、これが一番大事ですから! あと、壁はすごくチェックしました。作品を壁に貼って少し遠くから眺めて『どうかな?』って考えたりすることが多いので、床と同じくらいのスペースの白い壁があるところがいいなあって。
今はお部屋で書いていますが、いずれはアトリエをもちたいです。もっと大きな作品にもチャレンジできると思うので。そのためにも、もっと頑張らないと!」
作品集『書道アーティスト 原 愛梨 愛』

− 初の作品集となりますが、一番こだわった部分を教えてください。
「見ていて飽きない作品集にしたいなと思って、掲載作品の選択も、掲載順などの構成も自分で考えました。書道に興味のない方にも手に取ってもらいたいですし、パラパラ見ただけで終わっちゃうのは寂しいので、より楽しんでもらえるようにさまざまな工夫をしました。
特に、『実はこれも文字だったんだ!』という、隠れ文字の要素はぜひ注目してほしいです。たとえば、『大きな親子の大きな愛』という作品では、キリンの体の模様を全部カタカナとひらがなの “きりん” で書いています。この『福を呼ぶフクロウ』も羽の部分に言葉が52個隠れているので、ぜひ見つけてもらいたいです」

− 見る度に発見があるような、こだわりがたくさん詰まった一冊ですね。
「もうたくさん詰め込みました! 作品だけでなく、写真やエッセイも入っています。難しかったのは、書道の生々しさを本(印刷)で表現するにはどうしたらいいかというところです。あとは、作品を書いたあとの作業量の多さにも驚きました。これまで作品にタイトルを付けることが少なかったのですが、書籍化にあたって全部タイトルをつけましたし、解説もすべて書いたので。
また、本当にたくさんの方の協力のもとで出来上がったものなので、改めて『作品集を出すって大変なんだな』と実感しました。書道アートを書いて終わりじゃなかった!(笑)」
− この作品集で一番伝えたいことは何でしょう?
「『愛』ですね。それが一番のテーマなので。家族への愛や友人への愛などはもちろんですが、自分への愛も大切にしてほしいなというのを伝えたいです。本書には、ステイホーム中に書いた新作が多く掲載されています。こんな時期だからこそ、この本がもう一度『愛』について考えるきっかけになればと思います」
− たくさんの愛が伝わってくる作品集。今後の活動について意気込みを教えてください。
「もっと書道アートを世界に広めたいという目標があるので、ジャンルを問わず書くことに挑戦して、海外の方にも作品を観てもらうきっかけを作っていきたいなと思っています。将来はパリで個展をしたり、タイムズスクエアに作品がどーんと飾られたりするような存在になれたら。街中に書道があふれる環境になるように、書道に尽くしていきたい、広めていきたいと思っています」
【出版概要】
『書道アーティスト 原 愛梨 愛』
著者:原愛梨
発行:株式会社KADOKAWA
発売日:2020年8月19日 定価:1,900円+税
書店、ネット書店にて販売中
Text by 吉田 光枝 Photo by 丹野 雄二
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