引越しには、ドラマがある。あの日、あのとき、どんな想いで新生活をスタートしたのか、そして当時の経験が今にどうつながっているのかを伺うインタビューです。
今回お話を聞いたのは、7月31日公開予定の映画『君が世界のはじまり』に出演する、俳優の金子 大地(かねこ だいち)さんと片山 友希(かたやま ゆき)さん。金子さんは5年前に北海道から、片山さんは3年前に京都から、役者になる夢をおいかけて上京してきました。
不安と孤独を乗り越えて……

− お二人はそれぞれ北海道と京都ご出身ですが、引越し当時にどのような想いを抱いて上京されたか教えてください。
金子「『父ちゃん、母ちゃん……東京で頑張ってくるよ!!』という感じでした(笑)。でもいざ東京にきたら、すぐにホームシックになってしまって。それまで自分にとって東京は “夢の街” だったのですが、実際はすごく“現実”だなと思いましたし、一人でどこまでできるのか試されているという状況は初めてのことで、18〜19歳くらいのときは本当につらかったですね」
片山「わたしは二十歳で上京してきましたが、そのとき友達に何も言わずに出てきたんです。高校を卒業してから、まわりはみんな大学へ行ったり就職したりしていたけれど、自分だけ何もしていないというコンプレックスがあって、友達とうまく関わることができなくなってしまって。それに、地元ではわたしだけでなくみんな、どこか東京に対するコンプレックスを抱いているように見えました。そういう息苦しさのようなものから飛び出すように上京してきたのですが、わたしもやっぱりホームシックになりましたね。怖くて怖くて、嗚咽するくらい泣いた日もありました」
− そんなにつらい思いをしながらも、夢を追いかけ続けたのはなぜですか?
金子「僕の場合は、応援してくれる人の存在があったからです。東京で出会った人たちはもちろん、北海道にいる家族や友人の期待を背負っているので頑張らないといけないと思い、少しずつ前を向くことができました」
片山「わたしは、一度決めたことは曲げたくないからです。わたしは小学生のときから将来は東京に行って挑戦するって決めていたんです。最初はつらかったですが、映画『ここは退屈迎えに来て』のオーディションに受かったことで流れが変わったように感じます。次第に仕事もいただけるようになって、ようやく自分の在り方を認められるようになってきました」
自身の経験を、役柄に投影

− 今回お二人とも、悩みや葛藤を抱える役柄を演じられていました。ご自身が上京時に感じた感情や経験は演技に生きましたか?
金子「僕の演じた伊尾は、父親の再婚相手が暮らす大阪に、東京から引っ越してきたという設定なので、環境が変わることへの不安や怖さはすごく理解できました。実体験から言うと、引っ越すと友人関係もゼロからのスタートになるので “一人で考える時間” がすごく増えるんです。よくも悪くも遊びに逃げることができないので、いやでも自分と向き合うことになる。そんな伊尾の心情を思って演じていました」
片山「わたしの演じた純も、勝手に相手に壁を作って自分は孤独だと思っている女の子で、当時の自分自身ととても重なりました。わたしも『遊ぼうよ』とすなおに声をかけられなかったんです。あのときの “寂しさ” を純という役を通して表現できると思いました」
− 演じてみて、感じたことや印象が変わったことなどを教えてください。
金子「伊尾には、ギャップがあるなと感じました。一匹狼で、一見すごく達観しているようですが、実際はすごく視野が狭くて、一人でもがいているんですよね。純との関わり方でも、客観的に見ると伊尾が純を利用しているように見えるのですが、いざ演じてみると、むしろ振り回されているのは伊尾のほうだと感じました。こういうリアルな感情は、相手が片山さんだったからこそ生まれてきたものだと思います」

片山「わたしも純を演じていて、彼女の成長を確かに感じました。終盤のシーンであるセリフが予定されていたのですが、わたしは『純ならそのことばは言わないのではないか』と監督にお伝えしました。そのセリフは確かに純の成長を表現できるのかもしれないけれど、わたしは成長とは誰かに対して大きな声で伝えるものではなくて、自分の心の中でしかわからないものだと考えたんです。それは自分にも重なることで、自分が今以前と比べてすなおさをもって友達と接することができているのも、知らぬ間に成長できていた証なのかなと感じています」
映画『君が世界のはじまり』

− 最後に、映画の魅力を教えてください。
金子「それぞれのキャラクターが主人公と言えるくらい、一人ひとりが丁寧に描かれた作品です。いろんなキャラクターに感情移入できる人もいるでしょうし、できない人もいると思いますが、今この時代にできてよかった青春映画だと思っています」
片山「うーん、なにを伝えればよいのか悩んじゃうな……」
金子「一番伝えたいことは映画に詰まっているもんね」
片山「うん、そう。そうです。一番伝えたいことは、映画に詰まっています! ぜひ、見ていただきたいです!」
夢を追いかけて東京へ来たお二人。たくさんのつらい日々、そしてもちろん喜びも得ながら役者として邁進してきた背景があるからこそ、映画内であれほど生々しい表現ができたのだとわかりました。
誰もがきっと、青春時代に息もできないような孤独や不安を抱えたことがあるはず。そんな日々がまざまざと蘇り、「生きる」とは何かを思い出させてくれる鮮烈な映画『君が世界のはじまり』をぜひご覧ください。
2020年7月31日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

【あらすじ】
大阪の端っこのとある町。深夜の住宅地で、中年の男が殺害される。犯人は高校生だった。この町の高校2年生のえん(松本穂香)は、彼氏をころころ変える親友の琴子(中田青渚)と退屈な日々を送っていたが、琴子がサッカー部のナリヒラ(小室ぺい)に一目惚れしたことで、二人は徐々にすれ違うようになっていく。同じ高校に通う純(片山友希)は、母が家を出ていったことを無視し続ける父親に何も言えぬまま、放課後ショッピングモールで時間をつぶす。ブルーハーツを聴きながらふと通りかかった屋上で、東京から転校してきた伊尾(金子大地)と会い、求めるものもわからぬまま体を重ねるようになる。偶然ナリヒラの秘密を知るえん。急接近した二人を見て見ぬふりをする琴子。琴子に思いを寄せる、サッカー部キャプテンの岡田(甲斐翔真)。思いの捌け口を見つけられない純。田舎に閉じ込められた自分と義母を重ねる伊尾。変わらない町―。そんなある朝、父親殺しの犯人が逮捕され……。郊外の気怠い空気とそれぞれの感情が混じり合い、物語は疾走していく。
松本穂香
中田青渚 片山友希 金子大地 甲斐翔真 小室ぺい
板橋駿谷 山中 崇 正木佐和 森下能幸
江口のりこ 古舘寛治
原作・監督:ふくだももこ 『えん』『ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら』 脚本:向井康介
音楽:池永正二 撮影:渡邊雅紀 照明:林 大智 録音:西 正義 整音:原川慎平 編集:宮島竜治
美術監修:小坂健太郎 衣裳:宮本茉莉 ヘアメイク:有路涼子 スチール:木村和平 助監督:伊藤希紗
企画制作:オフィス・シロウズ
配給:バンダイナムコアーツ
製作:『君が世界のはじまり』製作委員会 バンダイナムコアーツ アミューズ オフィス・シロウズ
※古舘寛治の「舘」の正式表記は、舎に官です。
※新型コロナウィルス感染拡大の状況等により、公開延期となる可能性もございます。
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